黒猫のワルツ
――黒猫のワルツ
黒猫は語りき
これだから、長生きなんてしておくものだと僕は思う。
こんな面白い再会と、新たな出会いがあるのだから。
僕は平和島静雄という青年の膝の上で寛ぎながら思考した。
うん、男の膝だし取り分け彼の膝は硬い。
しかし、セルティさんの膝に行こうとは思わない。
そろそろ、セルティさんは素直になったほうが良い。
新羅さんも、僕をセルティさんに渡すとき本当に嬉しそうだったけど、実はちょっとだけ複雑だったんだろうに。
・・・やれやれ、気がつかないとでも思ったんだろうか。
伊達に長く生きてないんだから、わからないわけがないのに。
動物なんてのは特に鋭いのだ、そういう機微に。
青年に撫でられながら、僕はひっそりため息をつく。
こんなアンニュイな午後を過ごす猫なんて僕くらいだろうなぁ・・・。
『帝人は今までどうしてたんだ?連絡もなくて結構心配だったんだぞ??』
セルティさんの問いかけはPDAだ。
僕には不要だけど、もうくせなんだろう。
まあ、この青年もいる事だし、必要かな。
いや、そう言えば・・・。
『あの、平和島さん。』
「・・・静雄でいい・・・。」
なんで恍惚としているんだろうか、この人は・・・。
いいけど。
『静雄さん?』
「・・・ああ、なんだ?」
『驚かないんですか?』
「なににだ?」
『さっきから、猫が喋ってるんですが・・・。』
そう。
僕は喋っている。
自然に会話してし、前情報をセルティさんから聞いてても普通驚くだろう。
いや、確かに普通に会話してたんだけど。
今更だけども・・・・ねぇ?
うっとり撫でてるリアクションはおかしんじゃ・・・。
「・・・ああ。可愛い声だな・・・。」
『・・・・はあ?』
『し、静雄・・・?』
「ぶっ!!」
新羅さんが吹き出して爆笑した。
「あははははははははは!!お、可笑しい!!お腹がよじ切れる・・・・!!あいたっ!?」
あ、セルティさんがどついた。
しかし、静雄さんはアウト・オブ・ザ眼中、スルーである。
あ、ひょっとして、動物好きだけど、あんまり触れ合えたことがないとか・・・?
で、感動してるとかかな、これは。
ずいぶん丁重に、しかも恐る恐る撫でてるあたり、あながち間違いじゃないだろう。
『それで?今までどうしてたんだ?』
『ああ・・・まあ、順を追ってお話します。』
僕は静雄さんの膝の上で、過去・・・というほどの物でもないが、ここ十数年の事を語った。
今から17年ほど前。
僕は岸谷新羅の父、森厳の手から逃れるため岸谷家を飛び出した。
悪いけど、猫の開きになる気は無い。
魚の開きならいいのになぁ・・・はあ。
飛び出したものの当ては無い。
着の身着のまま(と言っても猫だから着物は無いけど)僕は適当にトラックに乗って放浪した。
気が付けば埼玉のまあ、田舎に居た。
・・・・・少し、懐かしさもあって、僕はそこでトラックから降りた。
そこで、一人の老婦人と出会う。
『その人が竜ヶ峰の性をくれたのか?』
『はい。』
変わった老婦人だった。
猫が喋ろうが、尻尾が2本あろうが、目の前で人間に化けようが「まあ、凄いわねえ。」の一言でかたずけた。
そうして、そのまま成り行きでその家の厄介になった。
暫く、猫と老女の一人と一匹の暮らしが続いた。
老婦人には家族は居なかった。
夫とは死に別れ、子宝には恵まれなかったらしい。
老婦人は孤独を紛らわす存在が欲しかったのか・・・は分からない。
あの手の人間が、一番心が読めない。
無理に知る必要も無く、僕は唯そこに居た。
・・・・ただ、少しだけ、昔の飼い主を思い出したから、というのも理由の一つだろう。
ある日。
老婦人は「もっと若い・・・子供の姿にはなれないの?」と聞いてきたので、近隣の子供を参考にして姿を変えた。
幼い姿を見て、老婦人は満足し、そして、僕を養子として向かえた。
どういう方法を使ったのかは知らないけど。
そうして、僕は『竜ヶ峰帝人』になった。
学校にも行った。
小学校、中学校と学生をしていたが、中学3年の秋、老婦人は帰らぬ人となった。
眠るように、彼女は夫のもとへ逝った。
老婦人を看取り、もろもろの手続きを済ませた僕は、人間の友人である紀田正臣に誘われるまま池袋へと戻り、現在に至るのだ。
◆後書き◆
帝人くんの過去話。
人間の高校生をやっている理由ですね・・・深くはつっこんではいけません。