黒猫のワルツ
――黒猫のワルツ
首なし妖精の心配事
帝人の今までを聞き、私たちは一息ついた。
黒猫姿の帝人はいまだ静雄の膝のうえだ・・・・ずるい、羨ましいぞ静雄。
とうの静雄も静雄でなんか幸せそうで・・・不平不満が訴えられない。
「それでさ、帝人くん。」
『はい?』
「暫くは怪我の治癒にかかるわけでしょ?すると、君は猫の姿でいるほうがいい訳だよね?」
『まあ・・・余計な体力消費したくないですし、暫くは。』
何!?
す、するとアレか!?
新羅!!
新羅は私の言いたいことがわかっている様で、私に一つ頷く。
「じゃあ、当面ここに居るといい!!セルティも喜ぶし、君なら僕も大歓迎だ!!」
『そうしろ帝人!!大丈夫だ、きっちり世話する!!』
『・・・・・・・・・・。』
帝人はぱちり、と大きな目を瞬かせる。
きょとん、としたその様は可愛い。
・・・そして静雄、いつまで撫でてるつもりなんだ・・・?
疲れないのか??
帝人は2本の尻尾をゆらり、とゆらして表情を変えずに一言、
『ご遠慮しておきます。』
と言った。
「え!?」
『な、nな何で!?私たちでは不満か!?』
動揺し、うっかり入力ミスしながら私と新羅は詰め寄る。
おろおろする私たちにちょっと引いたのは静雄で、帝人はどこ吹く風だった。
『岸谷森厳氏の息のかかったところに長居は無用です。』
「え、あ~・・・・。」
新羅が気まずげに視線を逸らす。
おおかた「我が父ながらホントにまったく・・・。」ってところだろう。
激しく同意だ。
『私がしっかり守るよ?それでもここは嫌か?』
『セルティさん達と一緒なのはいいんですが・・・やっぱり、本能と生理的に無理ですね。』
はっきり言うな、帝人。
そりゃ、私だってあの人は好きになれないが・・・。
しかし、本能・・・そんなか、そんなになのか・・・。
やはり、引き止めるのは無理か、と落ち込む私と新羅におず、と挙手する静雄。
新羅が「大人しすぎる静雄・・・天変地異の前触れ!?キモイよ、怖いよ!!」と後ずさって引くのを肘鉄で沈黙させる。
しかし、静雄はキレない。
というか、さっきからいやに静かだ。
これなら、"名は体を現す"に相応しいぞ、静雄。
私は逸れたことを考えつつ、PDAで先を促す。
『どうした?』
「いや・・・その・・・。」
言いよどむ静雄に私と帝人は首を傾げる。
「その、だな。嫌じゃなかったら、家に来ないか?」
『え?』
『はい?』
意外な提案に再度首を傾げる。
いや、くどいようだが私には首がないので、あくまで仕草だが。
帝人は猫ゆえに表情の変化に乏しいが、これは本当に困惑しているらしい。
ぱちぱち、と目を瞬かせた。
「その、暫くそのままのほうが都合がいいんだよな?怪我も治りやすいとか・・・。」
『え、ああ、はい。そうですね。』
あ、なんだ、ちゃんと聞いてたのか。
すまない、静雄。
帝人にうっとりしすぎて、てっきり聞いてないと思ってた。
「だったら、その間身の回りの世話できる奴がいたほうがいいんだろ?そのまま人間の住居じゃ不便だろうし・・・。」
『そうだが・・・あ、ひょっとして静雄。』
私は理解した。
つまりは、その世話役を静雄が買って出たがっている。
その心意気やよし。
出来ることなら応援したい。
したいが・・・。
「ちょ、ちょい待ち、静雄。」
「あ?なんだよ?」
「君、それ本気で言ってる?」
眼鏡のずれを直しながら新羅は一つ咳払いをして厳しく言う。
「君さ、自分の力のこと理解してる?ただでさえ帝人くん怪我してるのに、これ以上怪我が増えない、いや、増やさないように出来るって言えるのかい?」
『し、新羅・・・。』
「優しい君も素敵だけどね、セルティ。これは譲らないよ。大事なことだ。」
そう。
新羅の言うことは最もなのだ。
静雄の力は本当に強い。
人間とは思えない膂力が静雄にはある。
それは、本来人間が破壊できないもの、持ち上げられないものを破壊し、持ち上げることを可能にする。
加えて静雄は沸点が低い。
ちょっとしたことでキレて周囲を破壊することなんか日常茶飯事だ。
万一ブチギレた静雄が帝人を傷つけないという保障は、残念ながらないのだ。
「・・・・確かに、新羅の言うとおりだ・・・。」
ずうん、と暗雲を背負って静雄は目に見えて落ち込んだ。
・・・・ごめん静雄。
応援したいけど、うっかり帝人を潰しちゃいました、なんてことになったら笑えない。
『静雄さん。』
「・・・・・なんだ?」
『僕、お言葉に甘えて貴方のご厄介になります。』
・・・・・・・・・・・は??
はあ!?
「はあ!?ちょっと、ちょっと待ってよ、帝人くん!!聞いてた!?聞いてたよね!?」
『聞いてましたよ。』
驚愕する新羅に帝人はしれっとなんでもないように答えた。
いやいやいや・・・聞いてたのに何故??
静雄も唖然としてるよ・・・。
『別に大丈夫ですよ。』
「いや、どこが!?」
『問題ないですよ。だって。』
『この人は、僕を傷つけない。だから大丈夫です。』
きっぱりと帝人は言い切った。
その時、静雄がはっとしたように目を見開いたのを見たのは、多分、私だけだろう。
そこに、なんの感情があるのかは、言葉に出来ないが、なんとなくわかる気がした。
『それに、すっごく楽しそうじゃないですか。こんなに刺激的で魅力的なお誘いは久し振りです。』
ゆらん、と機嫌よさげに2本の尻尾が揺れる。
これは・・・。
新羅も気がついたのか、深いため息を吐く。
うん、わかるぞ新羅。
これは、何を言っても聞かない・・・絶対。
『知ってますか?退屈は猫を殺すんです。』
帝人は瞳を何時かみたいにきらきらさせて、喉を鳴らした。
◆後書き◆
静帝への更なる一歩・・・になれたかな・・・。
同居にこぎつけました。
帝人くんの好奇心は原作と同じくらいです、多分。
・・・もしかしたら、それ以上っぽいかもしれない。