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みとなんこ@紺
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それは優しいだけのうた

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街の交差点の信号機の上に立って足下を見下ろした。
白と黒に区切られた盤の目の上を、人々はそれぞれ何かを思考しながら足早にすれ違っていく。
待ち合わせに急ぐ者、会社の愚痴を呟く者、今晩の夕食のメニューに、くだらない世間話。
いつもと変わらず、だ。雑然とした思考の中には、何かしら自分を引き寄せるだけの力を持ったものはない。
空振りか、と場所を移動しようとして。不意に聞こえた呼び声に、彼は僅かに口元に笑みを浮かべた。


―――もう一人のボク、今どこにいるの?
相棒か。オレはセンター街の交差点にいる。
―――あそこかぁ、あそこ、なんだかうまく拾えないんだよね。…ねぇ、そっちに行っても良い?
ああ、待ってる。ここにいるよ。
―――ありがとう。


さて、と。もう少しここにいなければならないらしい。
気分自体は浮上したがやはり「声」は纏まりなく。
意識してシャットダウンしながら、彼は信号機に腰をかけた。

相棒を待つ間、行き交う人の流れを見ていると、そこかしこに同胞たちがいる事に気付く。
人には見えない、背に翼を持った人型のそれ。
街には天使たちもあふれている。

ごきげんよう。
誰かお待ちですか。

その中の何人かが、軽く会釈をして通り過ぎていった。
それに軽く返事を返していると、ふ、と何処からか視線を感じて目をやると。

母親に手を引かれて、横断歩道を渡っている子供とばっちり目が合った。
目が合うと、子供はただでさえ大きな目を2,3度ぱちくりと瞬かせ、大きく口を開けた。
ふ、と彼は悪戯げな表情で子供に向けて笑いかけると、口の前に人差し指を立てて、『黙って』。
子供は素直にパ、と空いた片手で口を覆うと、やがて笑って同じように『黙って』、と。真似するように人差し指を立てて見せた。
良くできました。
OKサインを出す彼に向けて、子供はにぱっと笑うと小さく手を振ってくる。
同じように手を振り返してやると、気が済んだのか、母親の手を引きながらはしゃいだ様子で駈けていった。上からそれを見送って、さてあの子供は後で母親に何と言うんだろうか、ふとそんな事が気になった。
たぶん、見た事をそのまま、ありのままに、辿々しい言葉で伝えるだろう。
そして何も見えなかった親は、聞き流してしまうだろう。子供は少しムキになるかもしれないけれど、いつかはそれも忘れて、記憶の引き出しの中に仕舞い込まれるパズルの1ピースに。
そしていつか、その1ピースを不意に拾い上げてしまって、本来ならあり得ないその光景を思い出して、首を傾げる事でもあれば、面白いかも知れない。

取り留めのない思考を払い、もう一人の遊戯は空を仰いだ。
今日はひどく影が濃い。
雲の白と空の黒のコントラストが鮮やかで思わず目を奪われる。

・・・そういえば。
相棒とはじめて会ったのも、こんな空の日だったな、と小さく笑った。

不思議な感慨のようなものがふわり、と沸いてきたように思う。
自分のはじまりがいつなのか、そんな事はとうに忘れてしまったけれど、彼と会った時なら憶えている。
最初に交わした言葉もすべて。

――――気分は?
・・・悪くないよ。

それから、はじめからずっと一緒にいたように笑いあい、何となく、ずっと2人でいた。
なぜだか過去は曖昧に霞んで、詳しくは思い出せないのだけれど。少なくとも、憶えている範囲で、これまでこんな長い間一緒にいた者はいなかった。
・・・だが、最近になってからだろうか。
言いようのしれない想いにかられる時がある。
時々、何処か遠くを見ている遊戯の視線の先に何があるのか。
何処かへ心を飛ばしている彼のぼんやりとした表情をみるにつけ、少しずつそれは大きくなっていた。
何かが変わりはじめている、そんな予感があった。

その変化は何処に起こっているのだろうか。
永遠に停滞しているはずの、この果ての世界に現れた何らかの流れ。
感じ取っている者はまだ僅かだろう。
だがやがて、それは劇的な変化をもたらすかもしれない。
・・・そのとき、自分はどうするだろうか。



「――――どうしたの、もう一人のボク」

遠慮がちに背中からそっと呼びかけられた声に、彼はゆっくりと顔を上げた。
「・・・何でもない。ちょっとぼうっとしてただけだ」
何処かに行くのか?
立ち上がったときにはもう既に彼の面から憂いを消し去り、いつも通りの笑みで笑って見せた。
遊戯は少しだけ訝しげに上目遣いで見上げたが、それ以上彼が何も言うつもりがないのを見て取ると、少し、困ったような笑みを浮かべた。
「・・・城之内くんの所に行かない?」