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恋が素敵だなんて誰が言ったんだ

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「・・・はあ」

トムさんを待つまでの間、フェンスに身体を預ける。
タバコを取り出して1本引き抜いた瞬間、視界を見覚えのある影がよぎった。

あいつだ。
来良の制服に身を包み鞄を肩からかけている。
人通りの多い中、誰か探しているのだろうか。きょろきょろと辺りを見渡していた。

「・・・・・。」

胸がいっぱいになる。
探しているのはいつも一緒にいる少し派手な友人だろうか。
それとも好意を抱いているらしいメガネの女子の方だろうか。
3人で笑いながら下校する様子を、焦燥とも憧憬ともつかない思いでいつも見つめていた。
うらやましい。
自分もあんな学生生活を送りたかった。
友人とくだらない話をしながら、好意をもった同級生とドキドキしながら、そんな風に帰りたかった。
思い返せば子供の頃からこの力のせいで、積極的に人と関わることがなく自分から友人を作ることなどできなかったのだ。
下校の思い出なんて僅かに幽か新羅の2人がいるだけだ。

だからあいつを見てると、絵に描いたような高校生活を謳歌していてあまりに眩く苦しく切なかった。
自分が叶えることのできなかった、理想が目の前を歩いているのだ。
胸が引き絞られたように痛む。

できるものなら自分もあんな風に過ごしたかった。
笑いながら、たわいの無い事を話しながら、一緒に。
・・・・・一緒に、歩くことができたなら。

一瞬隣で笑いあう自分とあいつを想像し、慌ててそれを振り払った。
何を考えてるんだ俺は。
そもそも名前もまともに知らない相手に。

(・・・確か竜ヶ、峰、だったはずだ)

セルティとの会話から記憶を手繰りながら下の名前を思い出そうとし、止めた。
いいんだこれで。
名前さえ朧げな相手に、俺もどうこうできるわけじゃないだろう。
これ以上近づくな。これ以上知るな。関わるな。
そうすればきっとこの思いも自然消滅してしまえる。
自分の思いに目をそむけ俯こうとした瞬間だった。声が聞こえたのは。