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勇者の遺物

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「ふ、フロワード・・・お前・・・」
自分の身に何かあったらしい。シオンには何の変化はなく、一応は安心した。フロワードは自分の体を見下ろし、想像とは違う異常に表情が崩れる。
「・・・は・・・?」
フロワードの体は、完全に女性の体になっていた。

フロワードは何の感慨もなく言い放つ。
「完全に女の体ですね。子宮や卵巣が付いているかどうかまでは解りませんが、それなりにまさぐってみましたが違いありません」
部下の言い方にちょっと肩の力が抜けてしまったが、シオンは心配そうに労る。
「それ以外で体に何か変な感じはないか?痛みとか」
「なにもありませんし、違和感も不調もありません。・・・目線がいつもより低いのが気になりますし、筋肉が落ちている様でもあります。あとはなんだか肩が凝りますね」
先程まではなかった胸の大きな膨らみを見てフロワードは顔をしかめる。
「それならまぁ・・・ひとまず安心か・・・」
シオンはフロワードをまじまじと見つめる。
シオンが想像した通り、美女だった。
肌は透き通るように白く唇は赤く色づいている。髪の毛は絹のように艶やかだし手足もすらっとして細い。
「・・・胸がついて縮んだだけだな」
「私はもともと筋骨隆々ではありませんからね。クロム元帥などとは違って」
フロワードは後ろを横目で見つつ言った。
フロワードの後ろにある扉から、どたどたと騒がしい音が聞こえてきた。
シオンは不思議に思って立ち上がる。すると扉が突然大きな音を立てて開かれ、入ってきたのはクラウ・クロム元帥。
「勇者の遺物が見つかったんだって?聞いたぜフロワー・・・ド・・・?」
「クラウ!?」
シオンは突然入ってきたクラウに驚いて声を上げた。
クラウも目の前にいる女の姿に唖然として間抜け面になって固まった。
「・・・フロワード?」
「えぇ」
「い、妹さんか何か?」
「いいえ?ミラン・フロワード中将ですが何か?」
堂々と答えるフロワード。
シオンの方がむしろ肝を冷やした。
「・・・聞いてくれクラウ。実は・・・」

「勇者の遺物・・・そんな危ないものが潜んでいるとは・・・!」
自分が女になったらとか考えているのだろうか。クラウはごくりと唾を飲み込んだ。
「俺やミラー先輩じゃなかったのが救いだな・・・」
シオンは思わず吹き出してしまった。
「私にしてみれば、陛下の御身に何もなくてとりあえずは安心でございます」
落ち着き払ってフロワードは言う。一番取り乱してなきゃ不自然な人物が言うものだから、クラウはなんだか詰まらなさそうに言う。
「落ち着いてるなフロワード。違和感ないし。つーか変わんねぇよお前」
「取り乱しても仕方ありません。それより解決策を見つけるのが一番かと」
「つまんねーなー。もっと取り乱したりしたら面白いのに・・・」
クラウの台詞を無視して、フロワードは言った。
「陛下、私をもう一度研究室へ連れていっては下さいませんでしょうか?もう一度この身を映してみたら何か分かるかもしれません」
「それは全く構わないが・・・何度試しても結果は同じだったじゃないか」
あの後すぐ、フロワードは多少混乱していたのだろう。自分の体が女になっていると気づいた後、もう一度手鏡を手にとって自分の体を映してみた。すると鏡には女になった自分が映っただけで何もなく、何度同じ事をしてももう光を発することもなかった。
「いいのです陛下。それと、私の部下を連れていく事をお許し頂けますか?」
「許可する。クラウも行くか?」
「行く行く」
そんな楽しそうな事はないとクラウは軽く頷いた。フロワードのこめかみに青筋が浮かぶがクラウは気づいていなかった。
「一応、クラウも存在を知っておいてくれ。何か知っている事があったら教えて欲しいし」
それを見たシオンは軽くフォローを入れておく。
かくして三人とフロワードの部下で再び研究室へ向かったのだった。






「へぇ。これがフロワードを女にした鏡か」
「妙な呼び方はやめて頂けますか?」
クラウとフロワードの間にバチバチ光るものがある様な気がするのは、シオンの気のせいではない。
「頼むから大人しくしてろよクラウ・・・」
「あ?俺だけ?なんだよフロワードの肩持つのかよシオン」
シオンは無視して、手鏡を持ち己の姿を確認するフロワードに声をかけた。
「どうだ?」
「いえ・・・」
言い淀み、フロワードは首を振る。
フロワードは後ろに控えていた女性の部下を呼び、部下に手鏡を持たせる。
何か起こるだろうかとシオンは固唾を呑んで見守るが、特に目立った事は起きない。
「・・・自分の姿は、確認できるか?」
「いいえ、壁しか映っておりません」
フロワードの部下らしく、丁寧で落ち着いている女性だ。美しい顔を平生に保ち、平生じゃないフロワードに報告する。
彼女は手鏡を台の上に置き、フロワードは連れてきていたもう一人の部下を呼んだ。
「手に取りなさい」
「はいっ」
こちらの部下はまだ少女と言って差し支えない年齢に見えた。
彼女は手鏡を手に取り、自分の姿を映す。
すると、まばゆい光が手鏡から発せられた。
「!!?」
皆に緊張が走る。光はどんどん大きくなり、視界を埋め尽くす。
何も見えなくなったと思った次の瞬間、光は全く消え失せる。あっと言う間の出来事であった。
「ふ、フロワード様、これは・・・一体」
手鏡を持った女性が困惑したように言う。彼女を見て、シオンは目を見開いた。
先程までは少女だったというのに、今は大人の色香漂う美女になっている。
「その鏡はどうなっている?」
「私の姿が確認できます・・・けど・・・大人になった姿になっています」
クラウもシオンも驚きに口を開いたまま手鏡を持った美女を凝視する。
「わかりました。手鏡を置きなさい」
言われるままに台に戻し、美女はまた後ろに下がる。
「・・・どう言う事だ?」
「恐らくこの手鏡は、使う者の望む姿を与えるのでしょう」
フロワードはこめかみに指をあてて言う。
「私が連れてきた部下は、己の姿に自信のある女と、自分にまた未熟さを感じる少女の二人。最初の彼女は自分に満足しているのでしょう。願いのない彼女を鏡は映さなかった。しかし、大人になりたいと願う少女が鏡を覗くと、鏡は少女の願望を叶えた」
「望んだ容姿になれるって事か」
クラウが手鏡を取って自分を映す。おい行動が軽薄すぎるぞとシオンは慌てるが、何も起きなかった。
「元帥閣下はご自分に満足なさってるという事ですね。あまり目標を高く設定されないご性格ですか?」
「ぶっ殺したらぁぁ!!・・・って、それって、お前が女になったのは・・・?」
シオンははっとしてフロワードを見る。事情を知らないクラウからしたら、フロワードは女装癖のある変人と言うことに・・・
フロワードはシオンを見て困った顔になった。
『しかし・・・私が女だったら今この瞬間でも隙のあるときに襲ってしまうというのに・・・本当に残念です』
『・・・お前が女だったら・・・きつそうな美人なんだろうね・・・』
あの時のやりとりを思い出す。
確かその後、女になったフロワードを想像してみたあー美人だなーとか思ったような気もする・・・
シオンはサーっと青ざめた。
「・・・悪いフロワード。俺のせいかも」
作品名:勇者の遺物 作家名:ハクヨウ