これがぼくの愛情論
もういちど殴ってやろうかと拳を振り上げて降ろしたら案外すんなり静雄の拳は、臨也の頬にめりこんだので、殴った静雄がびっくりしてしまった。なにこいつすんなり殴られているんだ。ただけっこう力をいれたにもかかわらず、臨也は飛ばされることもなく、両の足でふんばっているので、そこはさすがだと静雄は素直に感心する。
「ああいいね、痛みを感じるということは生きていることを実感できるからいい。自分が人間であることを確認できるから、いいね」
静雄はもうまた意味のわかんねえことをほざきだした臨也をとりあえずもうどこかに放り捨てたかった。ゴミ箱さえあればぶつけた後に丁寧に放り捨てたのになあと静雄は普段自分が投げ慣れているゴミ箱が妙に恋しくなる。臨也がくくくっと今度は笑いだしだので、もう静雄はこの自分の常識の範疇を思った以上に超えていたこのおとこが、もうきしょくてしょうがなかった。きしょい以外に形容できない。
「俺は人間がすきだから、性別はとくに問題じゃないんだ」
「俺は大問題だ」
「そのうち問題じゃなくなるさ」
「ていうかもうお前の頭が大問題だろ」
「ひどいな、シズちゃん。あ、そうだ、ひとつ誤解されちゃ困るから言うけどさ、俺は人間は好きだけど、シズちゃんはきらいだよ」
「てめえひとにあんなきしょいことしといて!!!」
今たしかに血管が数本切れた。悪いが男からは初チューだ。できれば一生体験したくない人生の汚点である。そんだけのことを人にかましといて、きらいだときた。いや好かれていてもなんかこまる。すごい困る。
「シズちゃんはきらいなんだけど、不思議なもんで、もうシズちゃんの手とか骨とか血管とかみてたら、むらむらしちゃうんだよねえ」
好きより厄介だった。静雄は、頬を染めはじめた臨也をみて、身の危険を今まで生きてきた中で最も感じたのでもうここは逃げることにした。逃げは時にして最強の守りである。ああすごく鳥肌がたってしまった!!!
「あとシズちゃんになぐられて、おれ、ちょっと興奮してきたよ」
にやあっときしょい人が笑うので、静雄はそのきしょい人に懇親の回し蹴りをかましてその場を後にした。臨也は二メートルくらいぶっとんだ。
「てめえは二度と池袋にくるんじゃねえ!!」