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gambling game

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 結果から言おう。やはりというべきか、ゲームは俺の勝利を以って終結した。寧ろいつも以上に俺のワンサイドゲームで、仮に俺達のゲームを観戦している奴が居たとしたら、面白みもなくつまらないゲームだったと論評するだろうね。
 俺の輝かしい勝利の要因は、俺が唐突にボードゲームにおける天才的な才能を開花させた、からでは勿論ない。そういった奇跡というのは、少年漫画の主人公以外にはそうそう容易に降りかかってくれないものである。もしかしたらハルヒが望めば有り得るのかもしれんが、あいつが望むとしたらボードゲームの才能なんて限定的且つちゃちいもんじゃなく、もっとぶっ飛んだもんだろう。取り合えず、いつぞやの朝比奈さんのごとく目から破壊光線が発射できるようになる才能だとか、意味不明の文字を使って宇宙人と交信できるようになる才能だとか、やたらとスケールがでかいがそのぶん俺の胃に甚大な被害を与えるような才能である事は確かだな。考えただけで眩暈がする。
 それでは何故、俺が近年稀に見る大勝利を実現し得たかというと、それはひとえに目の前で呆けたように黒一色――もちろん俺が使ってた色だ――に染まりきった盤上を眺めている古泉のせいだ。
 ゲーム中の古泉はとにかく終始、上の空だった。明らかに何かを考え込んでいるがしかしどう見てもその思案の内容は自分が行っているゲームを勝利に導く方法などではなさそうで、その証拠に自分の番が来ても俺が声を掛けなければ気づかない事が多々あったほどである。勝つ気というものがこいつからは微塵も感じられなかった。
「負けて……しまいましたか」
 ゲーム終了と同時に、古泉が淡白な声音でそう呟いた。ゲーム内容のあまりの酷さから、反射的に「わざと負けたんじゃないのか?」と言いかけるも、すんでのところで喉に貼り付ける。その呟きが、心のそこから敗北を悔いているように聞こえたからだ。
 それから正味二分ほどだろうか。古泉は先の一言を呟いたきり、燃料が切れたロボットのようにピクリとも動かない。表情を伺おうにも古泉は俺の視線を避けるように俯いているせいで、見えるのはやたらに長い睫毛ぐらいだ。なんというか、まるで俺が弱い者虐めでもしてしまったかのようで、非常に気まずい。時折何か思い出したかのように、その白くて細長い指が躊躇いがちな仕草でオセロの駒を弄ぶ様子を見る事で、辛うじてこいつに意識がある事が確認できた。
「――――君」
 どうすればこの空気を払拭できるか考え込んでいた事に加え、滅多に呼ばれない本名で唐突に声を掛けられたせいで、俺は一瞬反応が遅れてしまった。いつの間にか俺は本名よりもあの間抜け極まりないキョンという渾名に慣れてしまったのか。嘆かわしい。
「僕はゲームに負けました。だから、約束どおりあなたに僕の秘密を差し上げようと思っています」
 真っ直ぐに見つめてくる視線に、原因不明の居心地の悪さを感じる。珍しく、古泉の面からは笑顔が消えていた。
「ただ、その前に……負けた側で図々しい事は承知していますが、一つだけ、お願いしたい事があるんです」
「お願い?」
 真面目モードのスイッチをオンにしたらしい古泉は、一片の笑みも含んでいない表情で神妙に頷いた。
「そう難しい事ではありませんよ。あなたがこのお願いを聞き入れてくれない限り、僕は秘密を話す事は出来ません」
「俺が賭けに勝ったにも関わらずか」
「関わらずです」
「最初にお願い事とやらの内容を聞くのは」
「申し訳ないとは思いますが、それも無理です」
 真っ向から視線がぶつかる。ガキの時にどっかの博物館で見た琥珀に良く似た古泉の瞳には、賭けを持ち寄ってきたときと同じ必死さが滲んでいる。そんなにまずい内容なのだろうか。古泉のいう秘密とやらは。
 古泉の必死さ全開な眼差しバーサス俺の怪訝な眼差し。時計が示すような数字的な時間としては一瞬の事だったんだろうが、俺的体感時間としてはひどく長く感じられた。先に白旗を振ったのは、やはりというか、俺である。
「……解ったよ。今回はお前の願い事とやらを聞いてやる」
 後頭部を掻きながら、溜息混じりに承諾の言葉を吐き出す。僅かながらの安堵を滲ませた表情で古泉が微笑んだ。
「有難うございます」
「で、お願いってのは何なんだ」
 俺が無理だと思ったら即却下するぞ。
「簡単な事です。今から話す秘密に対して、あなたは何も言わないでください。慨嘆も感想も批評も何もかもです。出来れば何も感じず機械的に受け流していただくのが僕としてはベストなのですが、流石にあなたが人間である以上それは不可能でしょうから」
「なんでだよ」
「それは聞けば解りますよ。あぁ、もしかしたらあなたは僕にいわれなくても、言葉なんて返したくなくなるかもしれませんね」
 どんだけ酷い秘密なんだ。
「まぁいい、とっとと言え。じゃないとハルヒ達が帰ってくるぞ」
 それはまずいだろうと視線で問いかけると、古泉は久し振りに――時間的には数十分も経っていないが――笑みらしきものを見せた。ただしそれは微笑にすら成りきれておらず、例えるなら泣き出しそうなのを我慢しているようま、そんな表情だった。
「古泉?」
 どうかしたのかと怪訝半分、心配半分で尋ねようとした、その時。
「……僕はあなたが好きです。友愛ではなく、恋愛感情という意味で」
 水素爆弾レベルの破壊力を持った言葉が、俺と古泉が挟んでいる机の上へと落下した。
 古泉の声は、どっか怪我でもしてるんじゃないかと聞きたくなるほど苦しげだ。おかげでその声と内容の間にある多大なギャップに戸惑い、言葉の意味が直ぐに飲み込めなかった。
 古泉が、俺を、好きだって?
 常識的に考えたら冗談としか思えんし、個人的にもそう思い込みたいが、こいつの表情は冗談を言ってる風ではない。これで嘘だったらこいつは相当の演技達者だ。
「おい、古泉」
「何も言わないでください。そういう約束をしたはずです」
 取り合えず説明をさせようと名を呼ぶと、古泉らしかぬ鋭い口調で遮られた。今日はこと古泉に関しては珍しい事だらけだ。嬉しくもなんともない。
 言葉を封じられたにも関わらず、それでも何か言わなければという義務感のもとに、俺が見っとも無く口を開いたり閉じたりを繰り返していると、不意に古泉の携帯が揺れた。「失礼」と言ってから古泉は片手で携帯を開き、数秒間なにやら操作したと思ったら直ぐにそれを閉じる。
「すみませんが、『機関』からの呼び出しが入りました」
「おい!」
「片付けをお任せしてしまって申し訳ありません。涼宮さん達にはバイトに行ったとお伝えください。では」
 煙でも巻くみたいに早口で捲し立てながら、鞄を掴んで立ち上がった。
 って、お前は混乱してる俺を放置して一人帰るつもりか!
「ちょっ、と、待て!」
 脳裏にちらりと「本当に急ぎの用なのかもしれない」という思考が過ぎったが、そうやって考えている頃には既に体が行動していた。
作品名:gambling game 作家名:和泉せん