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gambling game

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 一つは、若干腑に落ちないものはあるものの、このまま古泉に同調して何事も無かったかのように振舞うことだ。そうすればおそらく、俺と古泉は以前と変わらない友人と仲間の間みたいな関係に無事収まるだろう。時が流れれば古泉も男なんかに惚れかけたのなんてすっかり忘れて、SOS団の女性面子と肩を並べられるほどの美人な彼女を作るかもしれない。
 そしてもう一つの方はといえば、古泉の触れないでくださいと言わんばかりの雰囲気なんてすっぱりと無視して、昨日の事を追及することだ。こっちはかなりの大博打である。下手をするともう二度と関係修復が見込めなくなるかもしれんし、大体にして俺が追及したところで古泉が素直にそれに応じるとは思えん。
 どの方向から考えたとしても、一つ目の選択肢を選ぶのが最良というものだろう。
 しかし俺の心は、何故か後者の方へと傾き始めていた。おそらくは、古泉に先に彼女が出来るかもしれないという想像が癪だったのだろう。そういう事にしておいてくれ。
「お前に無くても俺にはあるんだよ。昨日の放課後の件についてだ。もう忘れたなら、言いにくいがお前は若年性の認知性か何かだ。今すぐ病院に行って来い」
 内心に生じ始めていた恥かしさを誤魔化す理由もあり、捲し立てるような早口で言葉を投げつける。よく噛まなかったもんだ。賞賛に値する快挙なのだが、唯一の聴衆である古泉といえば、驚いてるのか何処か間の抜けた表情で此方を見ているだけである。なんだお前、まさか俺がこういう態度で来るとは想像してなかったのかよ。
「……あなた、面倒な事は嫌いだと以前おっしゃっていませんでしたか?」
「ああ、おっしゃったかもしれんな。だが、面倒以上に気になっちまうんだからしょうがないだろう」
 俺から視線を逸らし、古泉は憂いを帯びた表情でそっと溜息を零した。
「…………本当に、あなたは残酷な人だ。僕はこの話題には触れないでくださいとお願いした筈でしょう」
「お前な。あんな爆弾発言すれば俺がこうやって追及する事ぐらい予想がついただろう」
 呆れるぐらい頭が回るからな、こいつは。その代わり、思考回路が俺の百倍以上は複雑怪奇で難解至極だ。
「……この状況をまったく想定しなかったわけではありません。ですが、確率としては低いと踏んでいました」
 唇の端に、自嘲気味の笑みを薄らと浮かべて古泉が言う。
「何故だ」
 確率が低いと思ってた? 俺が考えるに、俺が俺である限りは絶対にお前に聞くと思うぞ。というよりも、あんな態度を取られりゃ誰だって気になって仕方が無いだろうさ。そりゃまあ、パンドラボックスを開ける前みたいな得もいえない緊張感はあるけどな。
 俺がそんな事を考えている暇があるぐらいの間を空けてから、古泉が俺の短い問いかけに答えようと重たげに口を開いた、その時だった。
「すみません、お待たせしましたぁ。ホックが上手くつけられなくって……。あ、もう入って大丈夫ですよ」
 誰の言葉かはいうまでもないだろう。麗しのエンジェル、朝比奈さんのお声である。まるで計ったかのような絶妙なタイミングだが、十中八九、天然なんだろうな。その証拠に、朝比奈さんは俺と古泉の様子の奇妙さに驚いたのか、きょとんとした顔をしている。
「あれ、どうかしました? ……もしかして私、お話の邪魔しちゃいましたか?」
「大丈夫ですよ。他愛の無い話をしていただけですから」
 恐る恐るといった様子で尋ねる朝比奈さんに、古泉が今さっきまでの会話を忘れたかのような、いつもの似非くさいほどに爽やかな笑顔で応えた。俺はといえば、朝比奈さんには非常に申し訳ないが内心複雑である。もう少しで古泉の本音が聞く事が出来たかもしれなかったわけだからな。聞かずにすんで良かったと思うところもあるが、聞かずに終わってしまった事を残念に思う気持ちのほうが強い。自分の事ながら、物好きなもんだ。
「キョンくん?」
 なかなか入ろうとしない俺を不思議に思ったのだろう。既に定番の衣装と化したメイド服を身に纏った朝比奈さんが心配そうに俺を見上げてきた。相変わらずアイドルもかくやという可愛らしさである。
「すみません、ちょっとボーっとしてました」
 俺は出来るだけ爽やかに見えそうな笑顔を作って応えてから、室内に踏み込んだ。既に古泉が定位置に腰を降ろしているのが目に入る。俺も少し悩んでから、結局いつものポジションである古泉の真正面の席を選んだ。
 何処から取り出したのか良く解らん分厚い本に目を落としていた古泉が、ちらりと此方へ一瞥を投げてくる。まるで詫びるように眉尻を下げながら微かな笑みを向けられ、俺はそれに鼻を鳴らし視線を逸らす事で応えた。何に対しての詫びか知らんが、それなら態度だけじゃなくて言葉でも示してほしいものだ。
 程無くして、扉を半壊させそうな勢いでハルヒが文芸部質へとやってきた。さり気なく後ろに長門を従えての登場である。
 一瞬もしないうちに、室内に俺がいることを見つけると、ハルヒの眦が勢いよく釣りあがり。
「ちょっと、なんで居るのよ! 帰って寝なさいって言ったでしょこの馬鹿キョン!」
 犬のごとくきゃんきゃんと吠え立てられた。なんだ、俺が団活動に熱心になっちゃ悪いのか。
「キョン君、具合悪いんですか?」
 ハルヒが俺に言葉を返してくる前に、朝比奈さんが心配そうに眉を寄せた。
「いえいえ大丈夫ですよ。ちょっと寝不足なだけですから」
「そうそう、こんな体調管理も出来ない馬鹿の心配なんてしなくていいのよ、みくるちゃん。それより !」
 俺の反論を許す間もなくハルヒは唇を尖らせながら強引に話を纏め、素早く次の話題に移った。すなわち、朝比奈さんの新衣装についてである。
「今回のコンセプトは意外性よ !」
 そう言って、いつの間にそこに置いておいたのか、ハルヒが部屋の隅に鎮座していた紙袋を高々と掲げた。その表は、ショッキングピンクの背景に、肌面積が異様に多い女性が満面の笑みでこちらを見ているという、いかにもな柄である。真っ当な店で買ったとは思いがたい代物だな。
 そんな怪しすぎる紙袋の中から取り出されたのは、猫耳ヘアバンドと橙色がメインの着物であった。
 ……確かに男として、女性の着物姿にときめきを感じないといったら嘘になる。それが朝比奈さんならばなおさらだ。猫耳についても、まあ多少引っかかりはあるが、百歩譲って同意しよう。
 が、この二つを混ぜたものが俺の好みであるというハルヒの認識には大いに異議を唱えたいね。どれだけマニアックな趣味をしてると思われているんだ。万が一にでも周囲にそんな不名誉すぎる誤解をされたら、俺は本気でハルヒを訴訟するに違いない。確実に俺のほうが正しいと思うのに、負ける気しかしないのは何故だろうね。
 それから暫くは衣装の入手経路なんかについて自慢げに話していたハルヒだが、不意に時計へと目を落として話を中断させた。手早く衣装を畳んで紙袋へと戻してから、扉の前で団員四名へ向き直った。
「ちょっと早いけど今日の団活動はこれで終わり! 各自好きに帰って良いわ」
 長期休みですら活動を怠らないSOS団団長から出るにしては、珍しいを通り越して奇妙な言葉である。まさか、また碌でもない事を企んでるんじゃないだろうな。
作品名:gambling game 作家名:和泉せん