折原臨也の純情
(そう、それで帝人君が好きなのは非日常――、だから俺はいつだって非日常を用意してあげる!俺ならできるよ、他の誰でもない俺なら!)
情報屋として、この池袋をかき回す色々な材料ならば持っている。
そしてここ最近は帝人のために、帝人と会うためにあらゆることしてきた。
曰く――、『俺の仕事に文句付けて池袋に行く時間が短くなっちゃったよ。あいつの家庭は崩壊するべきだよね』『帝人君にぶつかった女いたよね、落として振ってやろう』『あの会社が潰れたら俺も暇になるし、帝人君のところに遊びに行けるかな』である。
同時にダラーズにとって有益な情報を集め、敵になりそうな部分を潰し、帝人が好むような非日常を作るために、帝人と過ごす時間を作るために努力してきたのだ。
失敗は許されない、けれど帝人の望む全てをあげられる、そう自負していた。
そして今、
「帝人君・・・俺は、さ・・・」
「は、はい・・・・」
恥ずかしげに俯く帝人の姿に、見えないだろうが微笑んだ。
そっと手を伸ばして頭を撫でる。
ビクッと帝人が震えたのがわかったが、撫でる手を止めるつもりはなかった。
「好き、だよ・・・」
「ほ・・・ほんとに・・・・?」
「うん。こればっかりは本当。信じてくれる?」
「は、はい・・!わかりました!」
帝人が顔を上げると、その頬の赤さに臨也はめまいがするようだった。
そこにかぶりつきたい・・と思いながら、手を頭からその頬へと移動させる。
その手つきに少しだけくすぐったそうに帝人は笑い――
「臨也さん・・・僕、誤解してました。静雄さんのことそんな好きだったなんて・・・応援しますから、頑張りましょうね!」
+
「ありえない・・・・」
これまでの流れを思い返してみれば、意味がわからなかった。
なぜそんなことを帝人が言い出したのか、なぜ自分のこの想いが通じないのか。
頭を抱えたままの姿勢からは、靴を履いていない自分の足が見えた。
「だ・・・・だれか、たすけて・・・・」
それが靴を持ってきてくれ、なのか、この恋を成就させてくれ、なのか、臨也自身にもよくわからなかった。
++
臨也が全力で開け放っていったドアがきぃきぃと音を立てる。
呆然と帝人はそれを見ていた。
帝人が先のセリフを放ったとたん、臨也の顔が赤→青→白へと移り変わり、次の瞬間には靴も履かずに飛び出して行ってしまった。
「何か・・悪いこと言ったかな僕・・・・」
悪いことどころか、臨也に致命傷を負わせたとは思いもしない。
(とりあえず臨也さんの靴どうしよう・・・)
悩む帝人の思考だったが、それ以上に臨也の思考は混迷を極めていた。