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Snow on Soul ―特別なもの―

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幸せな子供



「イザ兄ー!!ただいまぁ!」
「・・・帰・・・」
 びゅうっと音がして、ばたんと大きな音をたててドアが閉まると、きゃらきゃらと元気な声が屋敷に響いた。イザヤはそれにため息をついて閉じた目だけを開けて、眉を寄せる。返事を返さなくても二人の妹たちは自分の書斎へと来ると思い、暖炉の前で待つ。
 楽しそうな笑い声とともに、予想通りに足音がこちらへと向かってくる。
「イザ兄ーってば!!」
「居・・・答・・・」
「お帰り、マイル、クルリ。どうせ俺が返事しなくてもこっちにくるんだからいいだろ。」
 ノックもなく、ばんっとドアを開けた下の妹にさらに眉を寄せ、返事をよこさなかったことに不満を言う上の妹にため息をつく。確かにヴァンパイアとしては若いけれども、ふたりとも年頃なことを考えれば、あまりに元気すぎるのも少し考えものだと思った。
 えー、とマイルが拗ね、それをクルリがたしなめるとしょうがない、と如何にもな様子でため息をつき、ぼすっと二人してソファへと座った。そこへ、数少ない使用人のうちのひとりの執事が人数分の紅茶を運んできて、流れるような所作で礼をするとそっとでていった。
 人間である彼があれだけ物音もたてずに仕事をするというのに、なぜこの二人の妹はいつまでたってもそれができないのだろうか、と思わず眉間を抑える。
「で。どうだった?」
「楽・・・」
「冬だったからどうかと思ったけど、やっぱり市場はよかったよ!」
「品・・・多・・・」
「ねー!たくさん色んな店があっていろんなものがあったよね!!」
「それにしては随分帰りが早かったんじゃない?」
 領地に観光という名の視察に出ていた二人は、楽しそうに交互に言葉を紡ぐ。広大な領地をもつオリハラの家では、二人の妹が各地に赴くことがよくある。それは、長いと一カ月に及ぶ場合もあるけれども、大抵は予定を大幅にオーバーするものであった。
「おととい届いた手紙では、あと四日はかかりそうな感じだったけど。」
「・・・・それが、ね・・・」
「肯・・・」
 安楽椅子をゆらゆらと揺らしながら、イザヤが言葉だけを投げると、珍しく二人の妹は困ったような声を返してくる。いくら二人でひとつとはいえ、二人とも可愛いもの、綺麗なものが好きで、雑貨店や家具店を覗き込むと、引き剥がすのがなかなか大変なのは過去に何度も経験済みだ。
 そのことと、この荒れた吹雪を考えて、イザヤは二人はまだ帰ってこないだろうと踏んでいたのだ。それなのに、という単純な疑問から二人に言葉を返したのだたけれども、旅先で何かあったらしい。
「・・・ちょっと、変なことがあって、ね。気になったから急いで帰ってきたの。」
 普段のきゃらきゃらしたトーンを落として、落ち着いた声で返してきた妹に、イザヤは安楽椅子はそのままに身体だけを後ろに向けるように振り返る。
 クルリは柔らかな緑いろのレースをふんだんにあしらった服を着ていて、マイルは色違いの、桃色の服を着ている。膝には柔らかそうなワインレッドのお揃いのひざかけがかけてあり、きっと執事が紅茶と一緒にもってきたのだろう、とイザヤはあたりをつける。