【土沖】真選組が出来たころのくたびれ土方と沖田でくっつきかけ話
滑らかな音を立てて障子が開いた。土方はそこで初めて自分が仕事中に眠りこけてしまったことに気が付いたが、疲れていて目を開けることが億劫だった。本当に、くたびれていたのだ。
真選組の名前を掲げてからここしばらく、我々は多忙を極めている。仕事としても忙しい日々だったし、何人かは既に狗としての人斬りも経験した。土方など、死体の数を数える最中にどこまで指を折ったのか分からなくなって、脳が麻痺したことを思い知りうんざりするような体たらくだった。
だから、障子の開く音と共に誰かが入ってきたことにも知らないふりをした。目を瞑ったままでいると、足音は軽やかに畳の井草を踏む。その柔らかさは紛れも無く沖田のものだったので、ああ、総悟か、と頭の中に過ぎった。それだけだった。第一に、偽るつもりはなくても狸寝入りをしてしまっていることになるので、今更目を開くのもばつが悪いような気もした。
足音は途中で一度立ち止まって、それからよどみなく土方の傍にやってくる。頭の近くで足を止めて、どうやら正座の形で腰を下ろしたようだった。寝ている人間に近付くにしては、気配を殺していない。お陰で、今何をしようとしているかも大体分かる。
沖田は、土方のほうに手を伸ばした。
首を絞めるつもりだろうと、瞬時に考えた。性懲りもなく。もう何度も繰り返されたことだ。そうされると土方は大抵、沖田の白い指先が喉に触れた辺りで手首を掴む。沖田の方も慣れたものでそうするとぱっと身を引く。こういうことを、子犬の悪戯を咎めるように何度も繰り返した。だから、このたびも、同じことをと思ったのだ。
ところが、その手は土方に触る前にさまよった。それが躊躇を意味する類のものだったので訝しむと、瞼を開く間もなくその手がたどり着く。
親指がさわったのは、喉ではなく、くちびるだった。
まったく予測していなかった行動に、心の底がぎくりと強張る。すると、実際に体が固まったわけでもないし表情も動かさなかったのに、覚醒していたのに気付かれた。バレたかと舌打ちするのと同時に、上からよく馴染む声が落ちてくる。
「おはようございやす、土方さん」
「……」