【土沖】真選組が出来たころのくたびれ土方と沖田でくっつきかけ話
目を開けたって、蛍光灯の明かりで逆光になってしまって表情が見えない。眉を顰めると沖田は土方を覗き込むのをやめ、こちらの口元に触れていた指も離した。正座していた脚をあぐらの形に組み直し、土方が気だるく思いながら体を起こすのも構わずにふわあとひとつ大あくびをする。
「駄目だ、土方さんの眠気が俺にうつっちまった」
「なーに責任転嫁してんだコラ。お前のは年中だろ、年中」
「お陰さんで、狸寝入りは俺の方が上手でしたねィ」
「……テメェ」
腹が立ったので、先ほど土方に悪さをした沖田の手をぐっと引いた。簡単なものだ。バランスを崩した沖田がもう片方の手を畳につき、土方の目をじっと見上げる。手首を掴まれてそのまんま、抵抗のひとつもしやしない。
だから、「お前こそ、人が寝ている間に何をする気だったんだ」と、そんなことを言いかけてやめた。
時折、沖田はもしかしたら土方に性的なことを望んでいるのかもしれないと思うことがある。
明確にそう考えられる時もあれば、沖田自身も無自覚であろうと感じる時もある。その感情を隠したがるような顔をすることも、そうでないこともある。
沖田はいつだって、姉と近藤そのふたりのどちらにも思わないことを、ただひとり土方には「してみたい」と望んでいるようなのだった。あるいは、どちらにも求めたことのないものを土方に望んでいるのだった。
他にも近しい大人は大勢いたはずなのに、土方にだけ。殺意も不満も、ずっとずっと土方にだけ注ぎ続けているのだ。
さて、その日の夕暮れ、土方は浪士を斬った。
書類上で見知った人物であり、山崎の持ち帰った情報を見る限りではテロリストではなく攘夷志士と呼ぶべき浪士だった。
しかし、いぬが飼い主の手を噛むなんてことは許されない。だから、斬れと言われて素直にひざまずいた。
土方君、君は実に素直でいい。彼は現在は負傷してこの宿に身を潜めている。単身で動いている人物であるからそう手間はかからないだろう、早目に片を付けろ……こうも言われたので、お望みのとおりにその足で宿に出向き斬った。血が頬に少しだけ掛かったのでそれを親指で拭ってから、負傷していて身を隠し切れているつもりの人間を斬るほど容易い仕事もないな、と思った。
反吐が出そうだった。