【土沖】真選組が出来たころのくたびれ土方と沖田でくっつきかけ話
それから、屯所に電話をかけて監察に連絡を取った。騒がしさを不審に思った宿の主人が死体と部屋の汚れを見る前に後ろ手にふすまを閉めて、簡単に事情を説明する。こうしておけば普通の人間はまず、死体のあふれた部屋から慌てて離れようとするものだ。
主人と連れ立って階下に降り、部屋の後始末と補修代についての話をし終わった頃に山崎を含めた監察方が数人到着した。副長はお戻りくださいと言われたので、必要な情報を全て伝えた上で、それに甘えることにして屯所に戻った。
「おかえんなせェ」
部屋に戻って刀を外しスカーフを解いたところで、沖田がひょっこりと顔をのぞかせた。それから、土方が許可を出す前に部屋に入ってきて、後ろ手に障子を閉める。
白い着物に袴をはいて、さっきまでくつろいでいたようだった。ああ、と一瞥してから上着を脱ぎベストに手をかけたところで、じっと見据えてくる視線に居心地の悪さを感じて眉を顰め、顔を上げる。
「……言っとくが、俺は仕事から帰ったばっかで遊んでやる気力はねーぞ。構って欲しいんだったら時間を改めろ、つーかどっか適当な奴の所へ行け」
「やだなあいくらなんでも外回りから戻ったばかりのお人にそんな真似!」
「どうだか」
「どうにもね」
「あ? なんだよ」
「お疲れだなあ、と思って」
「……」
ああ、と、肯定すると少しだけ沖田の表情が動いた。珍しいことだった。
ベストを開いて肩から抜き、床に落とすと体が軽くなる。真選組の制服は我々の誇りの象徴の時もあれば、幕府の支配下にあるという象徴でもあった。支配下の象徴の時は体や精神が疲れるので、誇りの時とは違って息が詰まりそうな重さを持っている。左肩に右手を置いてみると、そこからじわりと疲れの自覚が拡散した。どうにもならない疲れだったので、溜め息のように口をついて出た。
「……くたびれたな」
手から血の匂いがした。まだ鮮明であたらしく、嗅ぎなれない匂いだった。
なれない、と思った。
沖田は聡かった。屯所内に伝わっている大まかな情報と土方の表情で、今日抱えてきたものの形を読んでいた。その形をしたものの持つ気色の悪さや、とうてい罪人とは思えないような人物を斬ることへのやるせなさを、まだ人を斬らせたことがないのに何となく察していた。
「まあ、そのうち慣れる」
「俺も?」