恋が素敵だなんて誰が言ったんだ2
『すまない』
心なしかPDAの文字を打つ指も頼りない。
セルティは紙袋の中身がライターではなく、メモリースティックだったことに凹んでいた。
あの後、公園で少し待っているとセルティがやってきたが、袋の中身の取り違いがあったことを話すと相当動揺し落胆した。
『新羅にはきつく灸を据えておく・・・』
「かまわねえって。元々こっちが忘れたもんだしよ」
平謝りするセルティだが、たかがライターでそこまでしてほしいわけでなく笑みが苦くなる。
『いや・・・これが初めてではないんだ。ここらで一発しめないと』
新羅が聞いたら逆に喜ぶんじゃねえのか特に最後のそれ、と思ったが言わずにおく。
この2人の事は当人同士にまかせておけばいい。
風が吹いて公園の木々を揺らす。
遠くでサイレンの音が聞こえた。パトカーか救急車だ。
意外に近い。こちらに近づいているのだろうか。
「それより悪かったな。これの為に来させちまったのか?」
気になっていたことをセルティに尋ねてみる。流石にそれだと申し訳ねえ。
『いや、これから仕事の受け渡しがあるんだ』
「ここに居ていいのか?」
『ああ。受け渡しはこの公園だからな』
その答えに安心する。じゃあ、やばいもんじゃねえんだろうな。
こんな通りに面した公園じゃ物騒なもんは取り出せない。
夕暮れ色が公園を染めている。赤く赤く。ビルも、人までも赤く。
サイレンが聞こえる。警告のように。
近く。近く。もっと近く。
「セルティさん」
止まった。
人ごみから突如現れたのは来良の制服のあいつだった。
夕暮れの赤の中、そこだけ異質な青が浮き上がっている。
不思議なことにあれほど五月蝿かったサイレンは聞こえなくなっていた。
「・・・・・・。」
驚きで一瞬呼吸が詰まる。
セルティがあいつと知り合いだという事は知っていた。
だがまさか俺と一緒にいるときに会うなんて、そんな偶然この人の多い池袋では考えられない。
穏やかな足取りでこちらへやってくる姿も、非現実的で白昼夢を見ているようだ。
「これ渡しますね」
『・・・。』
セルティとあいつのやりとりを椅子に座り聞き耳を立てる。
何故かそちらを見るのは憚られた。というかどうしたらいいのか分からない。
「え?座っていいんですか?でも・・・」
受け渡しが終わったのか、セルティはベンチに座るよう伝えたらしい。
勿論セルティは俺がこいつを好きだという事は知らない。まったくの善意からだろう。
だが俺にとっては予期しない爆弾を放り投げられたような気持ちだった。
ゆっくりとこちらに視線が移るのを叫びだしたいような緊張感で迎える。喉がからからだ。
目がカチリと合う。
「・・・・ん」
結局言葉になりそこねた音は、まともに声帯を震わすことすらなかった。
だが、それが座るのを促したように聞こえたらしい。
あいつは素直にそれに従った。
作品名:恋が素敵だなんて誰が言ったんだ2 作家名:ハルユキ