野ばら
俺がついてるんだから君はハッピーエンドだ、それ以外認めない。そう言い切られ、今度こそ笑いがこぼれた。
「俺が、ハッピーエンド?」
「そうさ!陰険で狡猾で要介護な君でも、俺がいるからにはハッピーエンドに決まってる」
聞き捨てならない言葉をいくつか聞いたが、イギリスはあえて聞かなかったことにしてやった。何かをこたえる代わりに、身体の横で大人しくしていた両腕を持ち上げ、自分からもそれをアメリカにまわした。広くて厚く、頼りになる背中だった。
「なあ、アメリカ…」
「なんだい」
「ひとつだけ、頼みがある」
「……ひとつだけ、だからね」
イギリスはその頼みを口にしながら、こいつは案外用意周到なのだなと思った。元とはいえ弟にこんな頼みをするのは躊躇われる、そう迷いが生じた時に思い出したのは、アメリカの「君とは兄弟じゃないけど」という言葉だった。無駄にプライドの高い時分のことを案じて言ったせりふだったのか、と思う。
頼みの通り、掴まれて皺をこさえたジャケットや濡れていく衣類に頓着せず、アメリカは文句ひとつ言わずにされるがままだった。頭を撫でていてくれさえした。頼みは、今だけ何も気づかないふりをしてくれ。
今だけは、許してくれなどと言う浅ましい自分を見なかったことにしてくれ。みっともなく泣き崩れる自分を見なかったことにしてくれ。愛しい者を想って泣くことを知らないふりをしてくれ。
「君たちが幸せになるように、俺は頑張ってもいい」
自分の嗚咽に混じり小さ聞こえたその声に、イギリスの目からはまた少し涙が溢れた。