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惚れた弱み

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「もうー、いないの? 勝手に入っちゃうわよー?」
 その直後、ガチャリと勢いよくドアが開かれる音が部屋に響いた。

「―――――!!」

 声のない悲鳴を上げながら、立向居は思わず手にしていた雑誌を背に回す。
そして、訝しそうにこちらを見ている音無と、目がかち合った。

「あれ? 立向居……くん? なんでここにいるの?」
――それは俺が聞きたいよ、音無さん!
予期せぬ出来事に完全に錯乱しながらも、しどろもどろにだが部屋に入った経緯を話す。

「お、俺は……壁山くんから借りていた漫画を返しに、部屋に……っ」
「へー、そうなんだ」
「そ、それよりなんで音無さんは壁山くんたちの部屋に」
「私? 私は、マネージャーとして日本代表選手の部屋を掃除しに来たのです! えっへん!」
敬礼のポーズを取りながら、誇らしげにびしっと決める音無。
かっこよくも愛らしいその姿に、思わず頬が緩みそうになりかけ――立向居はいけない、と首をぶんぶんと振る。

――実際、マネージャーたちは勝手に俺たちの部屋に入って、掃除しているんだからさ。
先ほどの風丸の台詞を思い出し、立向居の背中につうっと冷たい汗が流れる。
 さて、一体どうやってこの状況を切り抜けるのか。いや、切り抜けることができるのか……?

「ところで、立向居くん」
「は、はいっ!」
 唐突に話しかけられ、立向居は背をしゃんと伸ばす。
その様子を見、音無はますます訝しそうに眉をひそめる。
「なーんか立向居くん、さっきから様子がおかしいよね……」
 じりじりと近寄られ、思わず後ずさる立向居。
自分自身は何もしていないはずなのに、この雑誌を隠し持っていたのは彼らなのに、この後ろめたい気持ちは何なのか。
「き、気のせいじゃないかな」
苦し紛れの言い訳を吐き出すが、もちろん音無春奈という少女がこれで引いてくれるほど甘いわけがなく。

「へぇ? じゃあ、その後ろのもの……何かなぁ?」
「……っ!? あ、え、えっと……これは……」
 いよいよ気づかれた。というより、核心を突かれた。
どうしよう、正直に壁山と栗松がエロ本を隠し持っていたんだと告白するべきか、それとも彼らとの友情を守るためにここは強引に話題を変えるか……。
正義感と――恋を取るか、あるいは友情を取るか。

 そういえば、壁山から借りていた漫画も似たようなシーンがあったような気がする。
恋と友情の間で葛藤し、心ゆれる主人公。その主人公の心境がまさに、今の自分だ。
読んでいた時は煮え切らない主人公に苛々していたが、今ならば主人公に感情移入できるような気がする。
 まさに究極の二択なのだから。
 ちなみに、その主人公は悩みぬいた末にどっちも捨てられるか! と両方選び取るという無謀な暴挙に出たのだが、その中で恋人と友人、どちらも納得し傷つかないようにうまく妥協策を編み出し、その結果めでたしめでたし、とまさに漫画らしい都合の良いラストを迎えた。

 が、さすがに現実はそんなに甘くない。簡単に妥協策が見つけられるのなら誰も彼も苦労しない。
 つまり、感情移入はできても、この状況の打開策にはあまり参考にはならないということ。

 いったいどうすれば――どちらを選べばいいのか苦心する立向居を音無は神妙そうにじっと見つめると、ぽつりと一言を吐き出した。――指を、右方に突きつけながら。
「あ、立向居くん。あそこにゴキブリがいるわよ」
「え!? ど、どこ!?」
彼女の指す方向に従うがまま立向居は視線を動かす――が、奇妙なことに気づく。あれ、なにもいな……
「隙ありっ!」
「わっ!」
いつのまに接近されたのか、まるで忍者が如く素早い動きで何かを掠め取られる。
そう、何かを――。
「あっ!?」
後ろ手が妙に軽いことに気づき、立向居はまさか、と恐る恐ると目の前にいる音無を見やる。
対し音無はにこりと笑いながら、立向居から掠め取った"それ"を彼の前で見せびらかした。

彼女にだけは見られたくなかった"それ"――「エロ本」を。

「ダメでしょ、立向居くん。こんな古典的なワナに引っかかっちゃ」
 ま、そこが立向居くんらしいけどね、と音無はくすくすと笑うと――、雑誌に一瞥をくれた。
「お、音無さん、これは……っ」
これは――その続きを口に出そうとして、はっとする。今、なんて言おうとした?
――これは、壁山くんと栗松くんのだって。そう言おうとしていたのではないのか。アダルト雑誌の所有者は彼らであることを、マネージャーである音無に告げ口するところだったのだ。
 それはすなわち、つい先程まで散々悩んでいた、恋を取るか友情を守るかの究極の二択で、無意識のうちに恋を取るところだったということで。

(でもやっぱり、言っちゃったら……音無さん、すっごく怒るんだろうなぁ)
普段、いたずらをした木暮に対して怒鳴るように。彼女は同級生の自分たちに対して特に容赦がない。それはもう、鬼のような形相で壁山たちを叱りつけるだろう。
叱りつけられる壁山たちを想像し、身震いするうちに、やはりどうしても、という迷いが生まれる。
 それは当然、本来未成年は読んではいけないアダルト雑誌を、FFIの真っ最中だというのに宿舎にまで持ち込んでいる彼らが悪いのだが――。

「意外だなぁ、立向居くんもこんなの読むんだ」
 苦笑いを浮かべながら、雑誌に目を落としつつ音無がそんなことをさらりと呟く。
またも恋と友情の板ばさみに一人悶々としていた立向居は、その台詞を耳に拾うと、え、と大きく目を見開いた。
 今、彼女はなんて言ってた? 立向居くんも、こんなの……エロ本を読むんだ、って?

(……誤解、されてる?)
脳裏に音無の台詞を反芻していくうちに。立向居は、今この状況でもっとも恐れていた展開になってしまったと自覚すると――みるみると、顔を青褪めていく。

――確かに、音無が部屋に来たとき、雑誌を持っていたのは自分だったけれど。
まさか自分がアダルト雑誌の所有者であることを疑われる……いや、あの様子だとほぼ断定だろう、されるとは夢にも思わなかったのだ。

「ち、ちがっ……それは違うよ、音無さん!」
 ともかく、動揺している暇などない。壁山や栗松の物だと決め付けられないだけマシかもしれないが、それにしたってこのままにしておいていいはずがない。
何とか誤解を解いてもらおうと、身振り手振りで必死に違うと訴えるが、それでも言い訳にしか聞こえなかったのだろうか、あぁわかっているからと軽くいなされた。だが立向居にはわかる。あの生温かい笑顔、絶対にわかってくれていない。

「大丈夫だよ、軽蔑なんかしないから。立向居くんも中学生だもんね」
 案の定、誤解されたままだった。
しかし失望するわけでもなく、かといって説教するわけでもなく、あの余裕たっぷりの態度。
寧ろ楽しんでいるのかとすら思う。
「だから違うって……って、えっ!?」
誤解を解くのにも諦めかけていたその時、彼女は立向居の目の前でアダルト雑誌をぱらぱらとめくるという信じられない行動に出た。

「お、音無さん! 何読んでるの!」
「なによ、いいじゃない。私だって思春期真っ盛りの中学生なんだから。
作品名:惚れた弱み 作家名:さひろ