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惚れた弱み

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それにどうせ没収されるから、こういうときぐらいじゃないと読めないし」
しれっと、寧ろ何が悪いのと言わんばかりに。時折、おぉ、などと興奮するような声を上げながら、音無は尚、ページをめくる指を止めない。

 あまりに予想斜め上の展開に、パニックを通り越して呆れて何も言えなくなった立向居は、ただ、深い溜息を吐き出した。
 仮にも日本代表のマネージャーがこんなアダルト雑誌を堂々と読んでいいのか。
もしこの場に壁山や栗松がいたら、自分たちには注意して没取するするくせにずるいっすと不満の声を上げるだろう。
あるいは、雷門夏未や彼女の兄が目撃したら……想像するだけでも、ぞっとする。

「そ、そういう問題じゃないと思うんだけど……」
「ねえ、立向居くんもこんな巨乳の女の人が好きだったりするの?」
「……お願いだから話を聞いてよ……」
 あまりのスルーっぷりに、もはや涙すら出そうになった。男として、情けなくも。
 興奮すると猪突猛進に暴走し、人の話が全く耳に入らない、いや入れようとしないのは音無春奈の悪いクセだ。と、彼女とそれなりの付き合いのある立向居にも、理解できるようになった。それが今の彼女だということも。
普段は、兄というストッパー役がいるのだが……。残念ながら、今はいない。
 故に、今の彼女を止められるのは自分しかいないのだが。
生憎、その自信がまるでない。それに今の質問も、答えに非常に困る質問だし。

(まさか、ううん、俺は音無さんくらいのが好きだよ、なんて言えないし……)
それに度胸のある無しに関わらず、こんなことを口に出そうものなら彼女を静められるどころか、半殺しにされかねないような気がする。なので、ここは自重。

「ねえ、立向居くん見て見て! この女の人すっごく大胆!」
「え?――わっ!?」
 なに、と続けようとした途端、立向居の目にセミヌードの女性が大きく映し出され――立向居は顔を真っ赤にし素っ頓狂な声を上げるなり、慌てて両手で目を覆う。一瞬だったが、表紙よりも遥かに破廉恥な誌面だったように思う。
 ところが視界が真っ暗になったところで、ぷぷっと今にも吹き出しそうな音無の笑い声が耳に入り――何か様子がおかしいと怪訝に思った立向居は、ゆっくりと両手を離す。
光を取り戻した彼の目に映ったのは――、開きっぱなしの雑誌を手に持ちつつ、腹を抱えて爆笑している音無の姿だった。
 立向居はしばし、なんのことか分からず唖然とし――。

(――もしかしなくても、遊ばれた?)

 ようやく頭がそのことを認識すると、どっと恥ずかしさが押し寄せてきた。

「ふ、ふふっ、立向居くんったら、おかしっ――ははっ」
「お、音無さん! ひどいよ!」
ここまでタチの悪いイタズラをされると、温厚な性格の立向居もさすがの我慢の限界だった。文句を言いつけるべく、口を開くと――。
「あははっ、ごめんごめん。でも立向居くんって、なんていうか、本当にウブだったんだね」
「え?」
「……ま、私はそういうところ、スキだけど」
 目元を俯かせ、頬を赤らめながら、音無ははにかむように笑む。
いたずらっ子から一転して、まるで恋する乙女のような表情をする彼女に、立向居もつられるように顔を赤くする。
 弄ばれたことに対する憤慨は、既に何処吹く風やら消え去っていた。

(え――なに)
 ウブだったんだね、といわれたときは、一瞬バカにされているのかと思ったけれど。
それを帳消しするような、直後の「スキ」という言葉。
恥らっているような表情から、今度はからかっているようにも思えなくて。
 だからこそ、戸惑う。いきなりそんなことを言われても、反応に困るだけだった。もちろん、嬉しくないわけがないけれど。

(期待、しちゃうじゃないか)
胸の辺りに手を当てる。どくんどくん、と早鐘のように心臓が鼓動を打っているのが掌に伝わってきた。

「音無さん……」
「……知ってたよ」
「へ?」

――知っていた、って、何を。
この流れからそんなことを言われると、否が応でも期待感が増すではないか。

「ほんとはね、最初からわかってたんだよ」

――もしかして、俺の気持ちが。
やばい。まだ心の準備ができていないのに。出来れば自分から告白したかったけれど、彼女が気づいてしまったのなら仕方がない。どんな結果でも受け止め――

「このエロ本が、立向居くんのモノじゃないってことぐらい。
 壁山くんや栗松くんのでしょ?」
「へ? あ、そ、そっち……?」
あまりに突拍子のなさすぎる告白に立向居はぽかんと口を開け――そして、盛大に肩透かしを食らったと認識すると、がくりと肩を落とした。
ほっとしたようながっかりしたような、何ともいえない複雑な気持ちに包まれながら、ふと目を丸くしている音無が目に入り――慌てて悟られぬように、平然を装った。

「え、えっと……最初から俺のじゃないってわかってたの?」
「うん。だって二度も前科ありだし。一度目は、全国大会を目指しているときで、二度目はキャラバンで旅してる時。二度目はまだ立向居くんが入る前だったから、知らなかったんだね。とにかくそのたびに夏未さんに見つかっては、散々懲らしめられて来たんだけど……二度あることは、三度もある、よね。まさかこんなところまで持ち出すなんて。全く、あの二人ほんっとうに懲りないわよね。いくら今は夏未さんがいないからって、私たちが見逃すと思ったら大間違いよ! 私に見つかったからには、これから二度とエロ本を持ち出せないようにきつーくお灸を据えてやるんだから」
拳を固く握り締めながら、物騒なことを決意する音無。
「そ、そうだったんだ……」
よくそんなに長い科白を朗々と喋れるなあ、と心の片隅で感心しながら、一方で壁山と栗松、ふたりの友人を想う。ここまで来たら、もはや誰にも止められまい。ふたりの末路を哀れみながら、立向居は静かに心の中で合掌した。

「あれ、でも初めから俺のじゃないってわかってたら……どうして」
「どうして最初は立向居くんのだって決め付けていたか、って?
――ごめんね、あの時は冗談のつもりで言ったんだけど……まさか、本気で受け取られるとは思わなくて。しかも立向居くんの反応が思ってた以上に面白かったから……、中々本当のこと言えなかったの。
……うん、ちょっぴりだけ木暮くんの気持ちがわかったような気がするよ。すっごく楽しかったもん」
思い返しているのだろうか、今にも吹き出しそうに笑いを堪えている音無は、とても反省しているように思えない。
そんな彼女を見やり、立向居は再び深々とため息を吐きながら、苦笑いを浮かべる。

(まったく、本当にしょうがないのはどっちなんだか)
散々と人のことを振り回しておいて。
それでも彼女のことを怒れない、嫌えない自分は、もっとしょうがないのかもしれないけれど。

「笑い事じゃないよ、音無さん……。まったく、俺がどんな気持ちだったか知らずに」
「あはは、ごめんごめん。――でも、立向居くんも悪いよ?
自分のじゃないって否定していたけど、それでも本当のこと――壁山くんたちのだって、言おうとしなかったでしょ」
「うっ」
――やはり、見抜かれてる。立向居は身体をこわばらせ、唾を呑み込んだ。
作品名:惚れた弱み 作家名:さひろ