全裸祭り
「だからなんで敬語?えーっと、まあそれは良いとして。帝人は今、Tシャツにハーパンそして腰にタオルっていう斬新な格好だろ?俺は見た通りパーカーにジーンズだけど。どうしたんだ?…もしかして目が見えなくなったとか…?!」
「いや、うん、見えてる、見えてるよ?ちゃんと正臣の姿も見えてる。……ただ全裸なだけで。」
「………帝人?も、もしかして欲求不満の余りスケスケ機能なんてついているような妄想に浸っちまったのか?!!幾ら俺が魅力的だからってそんなになるまでお前を苦しめていたなんて!!なんて俺は罪な男なんだぁあっ!」
「ああうん正臣寒い。…でも実際なんかの病気なのかな…なんか朝起きてから衣類が見えないんだよね。箪笥も空に見えたけど、本当は入ってるのかな…ちょっと正臣調べて。」
「……………え?いや、え?マジで?マジなの?」
「マジだよ。」
正臣との怒涛のやり取りに、帝人は自分がようやく落ち着いてくるのを感じた。
正臣は逆に混乱しているようだったが、正臣の場合は常に結構煩いのでそれは良しとする。
「取り敢えず、目玉焼き食べて良い?」
「………、……、…はぁ、相変わらずお前は変な所で冷静だよな…。分かった、それ食べたら新羅さん所行こうぜ。」
「じゃあセルティさんにメールして待ち合わせさせて貰おうかな。」
「……、まあうん。メル友なのかとかは突っ込まないぞ。」
「良い人だよ、セルティさん。」
正臣から牛乳を受け取って、置いたままになっている目玉焼きの元まで行くと、フライパンは既に暖かくはあるけど火傷しそうな程でなく、そのまま膝の上に置いて食べようかな、なんて思っていたら、背後からごそごそと音がして、そちらを眺めれば正臣が布団を畳んでテーブルを引っ張り出してくれていた。
グッジョブ正臣。
「悪いけど正臣の分は無いよ。」
「ああ、俺は腹減ってないから良い…ていうかお前飯それだけ?」
「冷蔵庫の中にこれしか無かったんだよ…。」
「じゃあ買い出しにも行かなくちゃだな、よぉしこのビューティーでワンダフルな正臣様が荷物持ちをしてやろう!」
ビシッと指を差してくる正臣に礼を言って(ボケに対してはスルー)フライパンをテーブルまで持っていくと、一緒に持ってきた箸で目玉焼きをつまむ。
うん、よく焼けてる。(帝人は目玉焼きは全焼き派だ)
牛乳パックに直接口をつけてると、正臣から何だか生ぬるいような視線を貰ったが無視。
洗い物は少ない方が良い。
帝人が食事をしている間に、正臣は先程帝人が頼んだ箪笥の中を確認する作業をした。
しかし答えは「皿は使わないのに、綺麗に畳んであるんだな…」という生ぬるい視線。
やはり衣類が見えていないのは自分だけらしい。
着ていく服を選ぶのは正臣に任せて、帝人は食べ終わったフライパンと箸を洗う事にした。
「変な服選ばないでよ。あ、出来れば着やすい服にして欲しい。というか着せて。」
「了解、俺を信頼して大船に乗ったつもりでいろ!」
「泥舟じゃない事を祈るよ。」
正臣はフンフンと鼻歌を歌いながら箪笥を漁っている(ようだ)。
特別変わったものは入っていないし、正臣だし、別にそれは良いのだが、なんとなく落ち着かない。
それは多分、何を触っているかとかが分からないからなのだろう。
洗い物は少なかったのですぐ済んだ。
正臣の方を見やれば、既に選んだのか何かを掲げているようなポーズを取っている。
見えないが多分、その手に選んだ洋服を持っているのだろう。
濡れた手を拭いて正臣の前まで行くと、正臣に腕を上に上げるよう指示される。
正臣は帝人の腹の辺りに触れると何かを握り、バッと上まで引き上げた。(ような動作をした)
それから正臣の手が指に触れて、腕に触れてゆっくり下ろしていくのを見て、あ、と思う。
布の感触も、無いんだ。
正臣は下肢にも触れながら、なんとなく変な顔をする。
「なんかさぁ、」
「なに。」
「…エロい感じだよな。」
「意味わかんないよ正臣。」
「脱がせたり着せたり、こう…アレの前の動作みたいな…。」
「…殴っていい?」
「ごめんなさい。」
そんな事を話しているうちに、どうやらちゃんと着れたらしい。(見えないけど)
本当に着れているのか不安ではあるが、正臣はそんな所で嘘をつかないし冗談も吐かないのでその点については信頼している。
ぶっちゃけこれが臨也辺りだったら、全くこれっぽっちも一コンマも信用出来ないが。というか元から頼もうなんて思わない。
「んじゃあ出掛けるか。」
「うん。」
靴まで履かせて貰って(変な気分)鍵を閉めて外に出る。
むわっとした空気は都会の夏なんだなあ、という実感が沸いた。(まあ部屋の中もそう変わらないけれども)
メールは既に食事中して、返信を貰っていたから、あとは待ち合わせ場所に行くだけだ。
しかし、帝人は重要な事をうっかり忘れていたのだった。
それは。
街中の人達全て、全裸に見えるという事。
男も女も少女も少年もおばさんもおじさんも老若男女、すべからく全裸。
神様、僕何か悪い事しましたか。せめて下着くらいまでにして欲しいです。
帝人は正臣に手を引かれながら、なるべく人を見ないように、特に女性なんて足先しか見ないようにして、池袋の街を歩いた。
待ち合わせ場所は西口公園。
人ごみは上手く正臣が避けて帝人を通りやすくしてくれているので、余り気にならない。
やっぱり頼りになるなあ、なんて思っていると。
すぐ近くの道から怒号と何かがぶつかる音が聞こえてきた。
ハッと思わず顔を上げてそちらを見る。
そんな間にも怒号は近づいてきていて、周りの人達は我先にと逃げていく。
正臣も帝人の手を引っ張っていたのだが、帝人はジッと音の聞こえる方、まあつまりは池袋名物の戦争コンビを見たまま動かない。
否、帝人が見ているのは、主に、彼らの、一部分的な部位。(だって見えてしまったから)
帝人は元から大きな目を見開き、あんぐり口を開けて、戦争コンビ、もっと言うならば平和島静雄(の一部分的部位)を見つめる。
「す…っ、」
凄っ!!!!
帝人の感想は、これに尽きる。
負けたとか勝ったとか、それどころではない。
勝負にならないというか、勝負をしようとも思わないというか、むしろもう感激?みたいな気持ちでいっぱいだ。
マグナムどころではない、あれは核兵器かもしれない。(言いすぎ)
「いぃいいいざぁあああやぁああああ!!!!今日こそ殺すぶっ殺すマジ殺す死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
「あははっ、なーに言ってんのシズちゃん、結局いつも俺に逃げられてるじゃん、つまりそれって俺の勝ちでシズちゃんの負けって事だよねぇ?」
そんなやりとりが結構近くで聞こえて、思わず帝人はツッコんだ。
いや、だって、、、仕方ないだろう、目に入っているのだから。
「いやいやいやあなたの負けです、静雄さん圧勝。あなたはむしろ普通?」
「「は?」」
突然割って入った声に、二人が揃って疑問の声を出し、帝人の方を向いた。
正臣は悲鳴をあげ、帝人の口を慌てて塞ぐが時既に遅し。
口からすべり落ちた言葉は戻らない。