【土沖】土方にあげたい沖田と扉を開けない土方のハロウィン
花びらが大きいものと、小ぶりなものとで一輪ずつ。濡れたまま畳に散らばって、色のない部屋には紫と茎の緑が鮮烈過ぎてぽっかりとする。花瓶があったのだから中に花が活けてあるのはむしろ当然のことなのに、なんだか意外に感じて瞬きをした。
土方の部屋はさびしい。
いつもあまりに物が片付けられていて、座布団も仕舞われて、不意の訪問者を迎え入れるのには向いていない。沖田などはゆくゆくこの副長室は自分のものになるのだからと今から自由に使い、布団にだって寝転がるけれど、そうではない人がここに尋ねてきたらとても困るだろうと考える。
それにしたって何処もかしこも、いい子に仕舞われていた着流しさえ煙草の匂いがするなあと呆れながら、これも勝手に拝借した帯を締めると、それを待っていたかのようなタイミングで頭にばさりと布が掛けられた。
後ろに立ったのが誰なのか見上げるまでもない、土方だ。白いバスタオルを人に引っ掛けて、そのまま乱暴に沖田の髪を拭き始める。
「ちょっと、犬の子を乾かすみたいに拭かねェで下せぇ」
あんまりぞんざいに手を動かされるのでぐらぐらしながら言うと、静かにしてろと言い捨てられた。どうやらこの男は洒落にならないようないたずらに怒っていないどころか、水を掛けたことを今更後ろめたく感じ始めたようなので可哀想になる。だって、畳はまだ濡れたままだ。そのうえ、「どうせ、来るだろうとは思ってた」と言葉を繋げる。
どうせとは随分な言い草である。しかし我々の間にある口汚さはもはや決まりごとのようなもので、沖田だって耳の後ろをごしごしとやられながら、歌うような声音で似たことを返した。
「そうでしょうねェ。俺にとってこんな祭りの日に利用できない土方さんなんて、誕生日とクリスマスとバレンタインにメールの一本さえ寄越さない彼氏のようなもんですもん」
「……」
そこでようやく真上を見上げてみると、土方は眉を顰めたまま見下ろして、なんだかものすごく形容しがたい表情で閉口している。今日一日で、結構に寿命を削ることが出来たと思う。
頭からすっぽりと白い布を被って、きっと外から見れば犬の子というよりおばけの子だろう。でも、指がタオル越しに髪を掻き混ぜるのが気持ちいいのでそのままじっとしている。すると、まるで呟くように静かな言葉が、上から雪みたいに落ちてきた。