【土沖】土方にあげたい沖田と扉を開けない土方のハロウィン
「……どうして、よりによってお前がそっち側なんだ」
それが問い掛けの形をしていたので、自然と閉じてしまっていた目をゆっくりと開ける。土方がタオルを引いて畳の上に置き、犬の子やおばけの子からようやくと、人間に帰る。
「そっちって」
「いつもいつも人にたかるくせ、どうして今日に限ってお前が菓子を配る側なんだって聞いてんだ」
さて、この解釈には驚いた。だって、いっぱいに詰めたマヨネーズを爆発させて部屋に飛び散らせることは、誰が見たって悪さではないだろうか。
「普通はいたずらされたって思うんじゃねェの?」
「ああ? アホか、マヨネーズ貰うことが悪さをされたことになる訳がねーだろ」
どうやら本気で言っているらしいので、心底から可哀想なものを見る目で顔を顰めたくなる。
けれど、決して土方にいたずらをしたいわけではなかったのは本当だった。振り返り、黒い着流しの裾を引くと、促されたのを知って土方は腰を下ろす。近くなった目線を重ねると、ちいさい子に言って聞かせるようにして沖田は口を開いた。
「ハロウィンは、幽霊の祭りなんですよ」
すると途端に嫌そうにしてびりびりと空気を尖らせるものだから、くちびるの端を上げて続けた。
「遠くの星では、毎年この日に死んだ人間が世界に帰って来るんでさァ」
「……お前、まだその類の話を信じてんのか」
「暗闇を歩いてくる幽霊は、かぼちゃのぼんぼりが光るのを目印に来て、知った人間が住む家の戸を叩くんですって」
「そんなものはいない」
「そうして戻ってきたのが良い霊なら構わないけれど、それが目印を間違えた悪霊だったら家に入れたが最後、色んな人が連れて行かれて大変なことになっちまう。だから生きている人間は、悪戯をされないよう菓子を渡す」
「幽霊なんざいない」
「俺がおばけで尋ねてきたって、あんたは戸を開けないでしょう」
どんなに開けたくとも。
そして、それは不自由ではないかと、沖田は思うのだ。
「誰が帰ったって、決して開けないでしょう」
言い切ると、何かを分かった灰色の目が、それを確かめるかのように細くなった。
土方の感情がそうやって苦く染まるさまは昔から沖田の欲しいもののひとつであったけれど、そういうものを見るたびに、この人は馬鹿だなあと思う。