二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こころのむこうがわ2

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

このところ、時折、目の端に、黒い影がよぎる様になった。
慌てて視線を戻しても、影はいつもするりと消えてしまい、掴むことが出来なかった。
だが、最初のころは一瞬だけしか目に入らなかったその姿は、時間を追うに従って、だんだんと形を明確にしていった。
そしてまた今日も、その姿を見つけた。
帝人はすぐにその影を追った。
いつもなら、どれだけ追ってもすぐに見失ってしまうその影は、今日に限って、何度角を曲がっても、帝人の視界から消えなかった。
駆ける帝人は息を弾ませながら、何で僕はあの影を追っているんだろう、と思った。
帝人の予想が当たっているなら、あの影は、絶対に追ってはいけないものだ。
それは間違いないのに。
追わなくては----。ここで追わないと、もう二度と掴めない。
そんな強迫観念のような予感に急き立てられ、帝人はただひたすら、影を追った。

追って追って、たどり着いた、小さな空き地。
日はほぼ落ち、暗く沈みこんだその場所で、その影は、ばさりとコートを翻して振り返った。
「やあ。帝人君。」
まるで何事もなかったかのように、いつも通りの微笑を浮かべる臨也。
「いざや…さん。」
息を弾ませ、途切れ途切れに名前を呼ぶ帝人に、
「元気になったようだね。よかった。」
まるっきり普通の”いい人”のように、話す。
なんとも言えず、黙り込む帝人に、臨也は笑う。
「どうして追ってきたんだい、帝人君。
 せっかく逃げる余地を作って上げたのにねぇ。」
試すようなその言葉に、唇を噛み締める。
そんな帝人に、臨也はゆっくりと手を差し出した。
「…君は選ぶかい----俺と共に生きる未来を。」
帝人は息を呑み、差し出されたその掌を見る。
その掌は、まるで自分を閉じ込める檻のようだった。
この手をとれば、もう二度と僕は逃げることは出来ないんだろう。
そんな選択、どう考えても馬鹿げている。
それは、今まで当然のように享受してきた日常、平穏な日々に背を向け、失うことを意味する。
けれど---。
けれど、帝人は、あの閉ざされた世界で、臨也がただ一心に自分に寄せていたものを覚えていた。
その激しさを、愚かさを、哀しさを、はっきりと覚えていた。
やがて、俯いていた帝人は顔をあげ、ゆっくりと、臨也の掌に自身の掌を重ねようと、手を差し出した。
だが、指先が触れた瞬間、帝人の体は強引に引き寄せられた。
「!!」
驚く帝人をその腕の中に閉じ込め、臨也は耳元で囁いた。
「帝人君。」
ひどく嬉しげな声で、言った。
「もう、絶対に逃がさないよ。
 今度こそ、死んでも。」
恐ろしいまでの執着を込めたその声に、体が震える。
抱きしめる腕の力は痛いほどだった。
帝人は、この腕に完全に囚われてしまったことを感じた。
もう二度と、この薄暗い世界から逃げ出すことは出来ないのだろう。
けれど----それでも構わないと思った。
とうの昔に帝人は、この瞳が秘めた闇に、捕まってしまっていたのだ。
帝人は震える息を吐いて、ゆっくりと目を閉じた。


作品名:こころのむこうがわ2 作家名:てん