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嵐の放課後に

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#3


 居残っていたといっても、あれはまだ十六時半頃の事だったと思う。
 強風圏には入っていただろうが、暴風域にまでは達していなかったんじゃないか。
 すぐにポヘを見つけられれば、飛ばされずに帰れそうだった。
 ……でも、雨は酷かったな。神田の家、知ってるか?あの辺りの低い土地一帯は、軒並み床下浸水の被害にあったらしい。
 横殴りの雨が叩きつけるように窓にぶつかって、バラバラと音がする。あれは煩いなんてもんじゃないよな。あれ以上雨量が増したら、お互いの声も聞き取りづらかった筈だ。ポヘが鳴いても聞こえるかどうか。
 まあ、あの時はまだそこまでじゃなかった。
 
 俺達は二手に分かれて、とりあえず一階を探し回った。
 ポヘの犬種はパグだ。パグは俺が飼っているレトリバーとは違って、成長してもそれほど大きくならない。あのサイズなら、何処にでも潜りこめるだろう。階段下の非常口前にあるスペースや、棚と壁に囲まれたちょっとした隙間。坂上も、そういう所を重点的に探していた筈だ。だから、あんなに埃まみれだったんだよな。狭い場所に身体を滑り込ませたり、手を差し入れたり、下を覗き込んだり……そうしていれば汗も出てくるさ。
 10分もしない内に、俺も灰かぶり状態になっていたよ。だが、ポヘは見つからない。
 
「日野先輩」
「坂上。そっちにポヘはいたか?」
「いえ……」
 
 気付けば既に階の半分を回って坂上と合流していた。
 
「お前、体育館は見たか?」
「まだです」
「じゃあ行ってみるか」 
 俺達は並んで第一体育館に向かった。もちろん、途中にポヘがいないか確認しながらな。
 
 体育館に着くと、坂上にはステージ裏を任せて、俺はギャラリーに上がった。
 俺達にとってはなんでもない場所だけど、あそこは犬猫にとっては結構危ないよな。駆け回れるほどの広さはないし、ポヘだったら、柵の間から落ちてもおかしくない。
 ポヘが人懐こい犬だったらいいんだが、もし人見知りする性分なら、俺が見つけて抱き上げようとしても腕をすり抜けて逃げてしまうんじゃないか……そんな心配もしたよ。
 柱の陰や暗幕の裏。隠れられる場所は全部確認してみたが、ポヘの姿は見当たらなかった。
 
「日野先輩……!」
 
 引き返して下におりると、坂上が青い顔をして駆け寄ってきた。
 
「どうした?」
「い、今そこで人が……いえ、幽霊が!」
「落ち着け。幽霊がどうしたって?」
 
 坂上の怯えようは尋常じゃなかった。風の音が人の声に聞こえたとか、大方そんなことだろうとは思ったが、とりあえず話を聞いてみることにした。
 
「……ステージの下に、パイプ椅子が収納されているスペースがありますよね。
ポヘがあそこに迷い込んだんじゃないかと思って覗いてみたんですけど、薄暗くてよく見えないので、ポヘの名前を呼びながら目を凝らしていたんです。
そしたら、突然肩を叩かれて。僕、日野先輩だと思って話し掛けたんですよ。
 
『まだここにいたんですか?早く上を探して来て下さいよ』
 
返事はありませんでした。気配は相変わらず背後にあって、僕をじっと眺めているみたいでした。
変だな、とは思ったんですが、ポヘの事の方が心配だったので、そのまま捜索を続けていたんです。
しばらくして、また肩を叩かれました。しかも、今度はこっちを向けというように何度も。
日野先輩は何をふざけているんだろう。ポヘも探さないで、僕をからかってるんだろうか。
僕はそう思って、苛々しながら振り向きました。
でも、そこにいたのは日野先輩じゃなかった。背の高い、新堂さんほどじゃないけどがっしりした人です。肩章で三年生だとわかりました。
 
『君、何を探しているんだい?』
 
彼は僕の肩に手を置いて、ニヤニヤと笑いながら尋ねてきました。
あんな風に見下ろされたら、すごく威圧的ですよ。
 
『あの…、犬を探しているんです』
『犬?犬といってもいろいろいるよな』
『パグですよ。このくらいの大きさの。ポヘっていうんです。僕の飼い犬です』
『そうかそうか。君、俺と一緒に来ないか』
『え?いえ、僕はポヘを探さないと……』
『ポヘなら、先にあっちに行っているからさ。おいでよ。すぐに逢わせてあげるよ』
『本当ですか!?それで、ポヘは何処に?』
『ついてくればいいよ。こっちだから』
 
彼はそう言って、僕の腕を掴んだんです。物凄い力でしたよ。腕が折れてしまうんじゃないかと思いました。
僕は怖くなって、必死で手を振り払いました。
すると彼は、酷い形相で僕を睨みつけたんです。
 
『どうして来てくれないんだ……』
 
そう呟いて、壁に溶けるように消えてしまいました」
 
 あれは、作り話って感じじゃなかった。坂上の奴、すっかり怯えちまってたしな。それに、俺には心あたりがあったんだ。
 
「お前、そりゃ田所芳樹じゃないのか」
 
 お前も聞いたことぐらいあるだろ?体育館で自殺して、誰かれ構わずあの世に勧誘している悪霊だよ。
 
 説明してやると、坂上は目を丸くした。田所の事なんて、全く知らなかったそうだ。
 
 そんなことがあったもんだから、俺達は薄気味悪くなって、そのまま第一体育館を出た。ポヘもみつからなかったしな。
 
 外で吹き荒れる雨風の音は、いよいよ激しさを増していた。
 顔色の悪い坂上と並んで廊下を歩きながら、俺はこの学校に存在する無数の怪談を思い出したよ。
 
 それから俺達は、常に一緒に行動することにした。怯える坂上をひとりにしておけなかったしな。
 ああ、正直に言えば俺も少し怖かった。だって、実際に田所は出たんだぜ?
 
 その次に俺達が向かったのは、プールだ。ポヘが外に出たとは考えにくいが、まあ一応な。
 
 その途中で、宿直室の前を通りかかった。照明が煌々とついていたよ。考えてみれば、台風だろうがなんだろうが、宿直の教師には関係ないよな。いつも通り学校に泊まって、夜になったら見回るんだろう。
 
 ──宿直室にポヘがいるとは思えないが、黒木にも協力を仰ぐか?今日は満月じゃなかったよな?
 
 俺達は、顔を見合わせた。
作品名:嵐の放課後に 作家名:_ 消