二十四時間戦争コンビ詰め合わせ
手足を縛られて猿轡までされて天敵の自宅の部屋に放り投げられて流石の臨也も青ざめた。何せ相手は平和島静雄だ。臨也を見付けるなり殺す殺すと騒いでいた男がこんな監禁なんて企てるとは思ってもみなかった。ああ、どうしてこんな事に。
面白い事になってきたと思う暇もない。じたばたと魚のように体を跳ね上がらせたところで疲れるだけだ。じっとして大人しくて殺されるのを待つのもよろしくない。
考えてみれば仕事が忙しくて二、三日ろくに寝ていない。どうせ本人は仕事へ行っているようで、しばらく帰っては来ない。 そう思っている内にどんどん眠くなっていた。こんな極限状態に置かれていても、人間は三大欲求の一つには抗えない。臨也の意識は次第に夢の世界へと向かいつつあった。
そこでの夢は不思議、を飛び越えてもはや奇怪だった。部屋に放置されたままの臨也を帰宅した静雄が無言で見下ろす。禍々しい殺気は放っておらず、穏やかな色の眼には情報屋の屈辱的な姿が映っているだろう。舌打ちしようとすると、後ろから抱き締められる。そして、猿轡も外された。
ぞわっとした。
「臨也……」
背筋が震えた。誰だ、この男は。てっきり殴られるとばかり思っていた臨也を待ち構えていたのは甘ったるい声と抱擁。視線を横に向ければ、隅に金髪が見えて自分を抱く人物が静雄なのだと望まずとも知る羽目となった。
「シズ……ちゃん?」
「ああ、何だ?」
「な、何してんのさ、何で殴らないんだよ」
「そうして欲しいならやってやる」
しなくていい。僅かに低くなった声色に恐怖を覚えて首を横に振れば、項を熱い舌で舐められる。温かい、と感じたのは最初だけで皮膚に塗りたくられた唾液が外気に触れて冷たい。
悪夢にしてもあまりにも質の悪い内容だと臨也は唇を震わせた。憎悪をぶつける対象に愛情を注ぐなんて見ている分には愉快だが、自らに降りかかればこれほど恐ろしい事はなかった。しかも、よりにもよってこの男からの愛。
「う、ああっ」
爆発したように泣きながら悲鳴を上げても静雄は離れようとしない。前へ回された手はシャツの中へ潜り込み、左胸を撫で回している。どくどくどくどく心臓がとてつもない速さで動いていく。夢なら早く醒めてくれと泣いても世界は変わってくれない。
熱に浮かされたように臨也、臨也と呟いて首筋に吸い付く静雄は静雄ではない。天敵を見付ける度に青筋を浮かべてあらゆる物体を武器にして殺そうとする男こそが、臨也が殺したいほど嫌いで殺したいほど好ましいと思っていた静雄だった。
「あいつを返せよ……」
夢などではない現実の世界に彼の姿はどこにもなかった。
作品名:二十四時間戦争コンビ詰め合わせ 作家名:月子