二十四時間戦争コンビ詰め合わせ
仕事帰りに路地裏をふらついていると、「にゃあん」と鳴き声がした。明らかに猫である。肝心なのは何処から聞こえるかで、この暗闇ではいくらサングラスを外しているとはいえ、見えるものも見えない。にゃあ、とまた聞こえた声に静雄は苦虫を潰したような表情を浮かべる。今ここで猫の姿を探したところでメリットは生まれない。なのに、地面に目を向けている自分が情けなくなってくる。
ようやく見付けたのは数分後の事だった。ゴミ箱やがらくたなどあらゆる必要なさそうな物が積み重なっている山から声は鳴っている。ちょうどその下段に置かれたやけに小綺麗な段ボールが小刻みに揺れている。
「…………………」
布のようなものに包まっていたのは黒猫だった。静雄の掌に乗ってしまう程小さそうな体からして、恐らくまだ子供だ。
親猫は何処に行ったのだろうかと辺りを見渡すと腐った臭いがする事に気付く。生ゴミ特有の悪臭とはまた違う、死骸が放つ腐臭だった。隅の方で蠅に集られていた黒い塊が目に止まる。すぐに目を逸らして子猫を抱き上げた。
気付いた事と言えばもう一つ。猫を寒さから守っていた布はファーの付いたコートだった。
「……どうしたの、それ」
「池袋は手前のゴミ捨て場じゃねぇんだ。手前のもんホイホイ捨ててんじゃねぇ」
「気に入ってるんだ。捨てるわけないでしょ」
それは普通の人間では決して分からない、長い付き合いの静雄だからこそ分かる『彼』の動揺だった。臨也は薄汚れたコートを静雄の手から無理矢理奪い取ると、コートと静雄を交互に見て溜め息をつく。常に自分以外のものを舐めきって見ているような目は憂いを宿していた。
「何でシズちゃんがこれ持ってたか教えて欲しいんだけど」
「んな事手前で考えろ」
「あ、そう……」
「……どうせ飼う気もねぇくせに中途半端な情けかけんじゃねぇよ」
「………………」
「一応トムさんの知り合いに渡しといた。だからそいつは必要ねぇから渡しに来た。……それだけだ」
教える義理などない。コートを返しに来たのも殴るついでだ。頭ではそう分かっていても口が勝手に動いていた。母親が死んで独りになった猫に差し伸べた臨也もこんな気持ちになっていたのかもしれない。漠然とそんな事を考えていると、臨也は俯いてか細い声で呟くように言った。
「……ありがと」
作品名:二十四時間戦争コンビ詰め合わせ 作家名:月子