二十四時間戦争コンビ詰め合わせ
2月14日。それは静雄にとって忘れられない光景ベスト10に入るほどの反応だった。こんな日に臨也の自宅へ訪れた事に関して下心がないか、と聞かれればイエスとは即答出来ないくらいには期待していた。
まさかあのノミ蟲に限ってそんなものを準備しているはずがない。いや、逆にこっちのリアクション見たさに用意しているのかもしれない。そう考えている内に既に手はドアノブに差し掛かっていた。
いつもなら力任せに鍵を破壊して開けていたが、今日だけは特別だと以前もらっていた合鍵を使って静かに開く。出掛けてはないようで、靴が彼らしく綺麗に揃えられている。
一つ疑問に思った事と言えば臨也が出迎えに来ない事だ。普段なら嫌味の一つや二つも言いに来るくせに珍しい。どんなに仕事に追われてても、こうして合鍵を使用して入ってきた時は少しだけ嬉しそうな表情で顔を見せる。別に、別にそれがないくらいで寂しいわけではないのだが。
「……臨也?」
が、その疑問はすぐに解けた。キッチンに行くと、見慣れた後ろ姿を見付けた。それとカカオ特有の甘い香り。テーブルにはドライフルーツやナッツが小皿に分けられており、小綺麗な包装紙とリボンが丁寧折り畳まれている。
本人は本人でこんなに近くに不法侵入者がいるとは気付かず、板をチョコを切り刻んでボールに移しかけている最中だった。ここまで見れば静雄でも何を作ろうとしているかくらいは分かる。随分手の込んだ物を作っているな、とこの位置からではよく見えない臨也の表情を窺おうとした時だった。
「あ」
視線が合った。合ったしまった。瞬間、臨也の頬が熱でもあるのではと思うくらい紅潮し始める。石榴色の眼は僅かだが、潤んでおり今にも泣きそうだった。そして、冒頭に戻る。
「な、何でここにいるのさ」
「だったら合鍵渡すんじゃねぇよ」
「でも今日来なくたっていいだろ」
「そりゃ俺の勝手だ」
明らかに動揺している臨也はあまり見れるものではなく、贔屓目で見ても可愛い。普段は殴りたいと思っていてもこういう時はどこか幼さを露呈してしまう彼はそう見れたものではない。
「……そのチョコ何だ?」
「俺が自分で食べるんだよ」
「だったら包み紙もリボンも必要ねぇだろ」
「……気分だけでも味わいたくてね」
「だったら外うろついてろよ。手前顔だけならいいから、いくらでも貰えるじゃねぇか」
決して単なる自惚れではないはずだ。どこか確信めいた考えを表面に出さず、臨也の返答を次々と論破していけば更に顔を赤く染まる。罪悪感を感じない事もないが、もっと虐めたいと嗜虐心が沸き上がる。
「結局誰のだ?」
「シズちゃんには関係ないよ」
「いいから答えろ」
「ああ、もうしつこいなぁ!」
我慢出来なかったのか、死ぬほど恥ずかしいようで臨也がキッチンを抜け出して寝室に閉じ籠もったところでやり過ぎたと静雄は溜め息をつく。鍵くらい簡単に壊してしまえばいいのだが、今回だけは流石に自重した。
「おい、臨也」
「出てけシズちゃんのくせに生意気」
「わるか、」
「……出来たらちゃんと連絡するから出て行ってくれよ」
作品名:二十四時間戦争コンビ詰め合わせ 作家名:月子