二十四時間戦争コンビ詰め合わせ
「で、どうするのさ」
それ。と新羅が指差した先にはソファに横たわったままの臨也が瞼を閉じている。こうして寝ていれば、幼く愛でる対象にも出来るのに世界は残酷だった。あの紅い眼光は神すら愉しんで殺してしまおうと目論む狂気の光を宿す。
「僕の薬の効き目は一週間。それまでは臨也は起きない」
「んな事言って起きやがったら、セルティに」
「えっ」
あの優しい妖精に危害を加えるつもりは更々ない。ただ新羅がこの前彼女の隠し撮り写真を見て鼻血を出していたのを言うだけだった。これはむしろセルティのためになる。その内言おうとしていた事だった。
「何を言う気は想像つくから止めてよ。セルティに嫌われるから」
「手前は少し嫌われてみろや」
「そうすれば静雄の気持ちも分かるって?嫌だよ」
そう呟きながら新羅は臨也の髪を撫でて笑った。自分の薬の効果が確かなものだと分かれば、薬によって昏睡状態に落ちたかつての同級生の末はどうでもいい。白衣の男はにこり、と愉しそうに錠剤で詰まったビンを掌で転がした。
「一週間は臨也は好きなように扱える。このまま殺してしまうもよし、手足を切り落としてしまうもよし。この反吐の顔好みの中年に高値で……ええ?何でここでそんな顔をするんだよ」
「ああ?」
「君も純情なんだか鬼畜なんだか」
新羅の言葉の真意を探るのも面倒になり、静雄は臨也の腕を掴んで上半身を起こすと、膝裏と腰に腕を回して器用に抱き上げた。ぶらり、と宙を舞った臨也の指は男にしてはやけに細い。
「一応、薬の解毒剤が何か教えておくね」
「要らねぇよ、そんなもん」
「君があんまりも寂しくて死にそうになった時のためだよ」
「やめろ、気持ちわりぃな!」
自分の頭に兎の耳が付いているのを想像して静雄はぞわり、と鳥肌が立つのを感じた。池袋に出歩けなくなる。それから、臨也の眼の色を思い出した。
「いいから聞いてよ。僕だって本当にこれで起きるから興味津々なんだ」
「なんだそりゃ。試してねぇのかよ」
「うん。臨也には実験台になってもらったよ」
鼻唄を歌いながら新羅はテーブルに乗っていた林檎を手に取り、軽くかじった。それから皮が歯に挟まったと騒ぎ出した。
「帰んぞ」
「待って待って!君のキスで臨也起きるから!」
「はぁ!?」
「君の粘液が薬の成分を中和出来るように作ってみたんだ。だから多分それで起きるよ、臨也」
寂しくなったら実践してみてよ、と言い残して新羅は洗面所へ走って行った。残された静雄は臨也の唇を見詰め、すぐに眼を逸らした。
作品名:二十四時間戦争コンビ詰め合わせ 作家名:月子