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二十四時間戦争コンビ詰め合わせ

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 外は土砂降りで雨音のせいでテレビの音がよく聞き取れない。ふつり、とスイッチを消せば臨也が嫌そうな顔をした。自分もろくに観ていなかったくせに、そんな態度をされる筋合いはない。
臨也の機嫌を損ねた理由に気付いたのは、居心地の悪さを感じてからだった。こいつはテレビ自体はどうでもよくて、ただ意識を逸らす何かを欲していただけだ。ちょうどいい電気器具のスイッチがオフになったせいで、互いの存在感が大きくなったように思える。ずっとテレビの画面ばかり観ていたのに、今は気が付けば相手の顔を見てしまうような状況になっていた。

 床で体育座りをしている臨也からの視線に応えるように振り向けば、さりげなく逸らされた。表情は変わっていないものの、赤に染まる耳までは誤魔化せない。それが無かったら、単にムード作りを目論んでいるのだと思い込めただろう。有るから照れていると分かって拳を振れずにいた。変な所で純情な臨也が気持ち悪く滑稽だ。

 もう帰るよ。立ち上がった臨也がのろのろと玄関へと向かっていく。殴りたくなるようなボキャブラリー満載の罵倒はどうした。たまにこうして毒気が抜かれたように振る舞うこいつが分からない。あれほど殺したいと思っていた奴を手の届く範囲に置いておきたいと考えてしまう。
今もこうして玄関で靴を履こうとした臨也の腕を引っ張って部屋へと連れ戻している。赤い眼球が見開かれていた。

「シズちゃん、離してよ」

 困惑が込められた声で文句を言われても手は離せず、臨也が諦めたように座り込むまで掴んだままだった。何かが満たされたような気分になった。

 雨はまだ降り続けている。


 時々ある事だから気にしないでいい。それと似た言葉を繰り返しながら咳き込む臨也の口元にはべっとりと血が付いていた。血糊ではないとは匂いで分かる。目の前で吐血されたからシャツを血まみれにされてしまった。静雄はそれを汚いとは特に思わず、今はこれを何とかすべきだと、臨也を抱き上げた。

 背筋が冷たくなったのは、脇腹の辺りを擦った時だった。シャツ越しでも分かるほどの体の細さ。骨と皮ばかりで病的な肉付きの悪さに舌を打つ。ついでに言えば暖房の前にいたくせにやけに冷たい。

 何だこれ。一番最初に感じた事がそれだった。ごほごほと咳を続ける臨也の顔面は蒼白で手が小刻みで震えている。目尻に溜まった水が果たして生理的な涙なのか、それとも死の恐怖から来る感情的な涙かどちらでも構わない。今起きているのかが何か知りたい。

「ああ、もう少しで死ぬみたいなんだよ俺」
「何でだよ」
「見れば分かる、だろ。ほんと、に鈍感だね」

 こんな時まで人を馬鹿にした笑い方をしなくてもいいじゃないか。血を吐くほど苦しいならば叫べばいい。苦しい。助けてくれと。
臨也はその思考を読み取ったように口元を歪めた。

「今ここで俺が縋っても君は救えるのは俺の心だけだよ」

 言葉のナイフ。その表現が恐ろしく似合っていた。

 静雄には臨也をここまで追い詰めたものを消す事など出来ない。それは静雄も最初から分かり切っている。ならどうすればいい。臨也の眼はさっさと出て行けと訴えていた。

「駄目なのかよ」
「何が」
「こっちだけでも」

 臨也をベットに降ろして胸を手で触れた。ようやく呼吸が落ち着きつつあった臨也が息を呑んだ。これでまた発作を起こされたら洒落にならないと一瞬冷や汗を掻いた。しかし、それは杞憂で終わったらしく、臨也は静雄を無言で見詰めるだけだった。
 臨也は心しか救えないと言った。そう、片方だけでもまだ救ってやれる。遅くはない、はずだ。

「キモい、シズちゃん」
「そんなに俺といたいの?」
「もっと可愛げのある子は星の数ほどいるのに」
「……そんなんだから甘えたくなるんだよ」

 ようやく聞けた本音だった。奇妙な感情に突き動かされて顔を近付けると、意図に気付いたのか臨也が身を捩らせて抵抗する。それさえも無視して唇と唇を合わせれば血の味が口に広がった。
これで病がこちらへ転移してしまえたらと、夢のような事は思わない。せいぜい、苦しみの半身を打ち砕けないものかと望んだ程度で。