ライチ詰め合わせ
「タ、タミヤくんになら殴られても蹴られても平気だよ」
ばささっ。勢いよく俺は持っていた教科書やらノートやらを落としてしまっていた。次は理科室で他のクラスと合同授業だからカネダと一緒にいられると思って楽しみにしていたのに。移動している時に合流したカネダからとんでもない事を言われてしまった。
殴られても蹴られてもいいなんて。いつもいつも虐められてばかりのカネダがそんな事をされて平気な訳がない。俺だって大切な親友に暴力なんて振るうなんて出来っこない。
それともなんだ。カネダは色々酷い事をされすぎて痛くされるのが好きですって趣味に目覚めてしまったのだろうか。駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。そんなの、絶対に俺が認めないぞカネダ。傷だらけになりながら笑うカネダなんて。
「いやだああああああああ!!」
「な、何が……!?」
「そんなに理科が嫌ならサボればいいじゃない、うるさいわね」
聞き慣れたオカマ口調に我に返ると、盛大に顔をしかめている雷蔵が俺の教科書を拾い上げていた。礼を言おうとして口を開きかけたところで、おろおろしているカネダと視線がかち合う。ああ、そうだ。教科書なんてどうでもいい物だった。
「どうしよう雷蔵!」
「何よ」
「カネダがMに目覚めた!」
「何言ってんのよ、あんた!」
雷蔵がかっと目を見開く。俺と同じような反応だ。そりゃ驚く。カネダがそんな大変な事になってしまったんだから。
けれど、雷蔵は教科書を丸めて俺の頭を背伸びをしてすっぱたいた。そうして、ものすごい形相で叫んだ。
「公衆の面前で何て馬鹿な事言ってんのよ馬鹿!」
「だ、だってよ」
「いいから落ち着きなさい!」
そこまで言われると言い返そうにも言い返せない。俺はぐっと息を詰まらせて隣のカネダに視線を送った。でも本当にカネダがマゾになったら俺はどうすればいいんだろう。
「……あの、タミヤくん」
「駄目だぞ、カネダ。俺は何があってもお前を傷付けたりしないからな。俺はお前をまも」
「はいはい、とりあえず落ち着いてちょうだい。あんたも誰に何を吹き込まれたか話しなさい」
「え……ジャイボ……」
「「!!」」
俺は雷蔵と顔を合わせて頷いた。やはり黒幕は奴だった。
「ジャイボが自分が嫌な事でも大切な人にされたら嫌じゃなくなるって言ってたんだ。それで僕もタミヤくんになら……」
「まあ、随分と一途な子じゃない。でもね、言い方を間違えちゃうと」
「ジャイボ……カネダに妙な事を吹き込みやがって……」
「ああいう事になるから」
「タミヤくんから黒いもやが上がってるね……」