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Bellezza

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館の主




そんな訳で、こうして吸血鬼の館に訪れたのだが、なんとも薄気味悪いところだった。

館の大きさは、この辺りに存在すること自体が非常識なほどの大きさで、置かれた調度はそれひとつで何日ぐらい暮らせるのだろうと思うほどに高価そうなものばかり。

だが昼間なのに窓もカーテンも締め切り、灯る小さな灯りは部屋の隅々にまで行き渡らず、濃い影を作っている。

何処に何が潜んでいるか分からない。

そんな不安を抱かせる薄暗い廊下を進むとピストルズが囁く。


「ミスタッ!ダレカイルゾ!!」


その言葉に気を引き締め、気配を探る。

すると濃い闇の奥から、ほとんど足音もさせずに一人の少年が現れた。

思わず息を呑む。

僅かな光にさえキラキラと輝く黄金の髪、闇に浮かび上がる白磁の肌、まるで人形のように整った人間離れした美貌の顔に嵌った瞳の色は、まるで蜂蜜のようにとろりと甘い。

まだ未発達の稚なさを宿しながら、まるで匂うような艶かしさを併せ持つ。


なんだ、これは?

これは、本当に、自分と同じ生き物か?


あまりにも自分とは次元の違う存在感に眩暈を覚えて、ただ見惚れる。

ここが危険な場所で、警戒しなければならないという意識も吹っ飛んだ。

それほどに、彼は圧倒的だった。

美しさも存在感も、それ以外の何もかもが……。


「こんにちは、初めまして、僕はジョルノ。貴方は?」


その姿に似合いの綺麗な声で、まるで歌うような調子でそう訊ねられ、ようやく現実に帰ってくる。


「……オレはミスタだ。ブチャラティの代わりにきた。館の主に会いたい」

「ブチャラティの?」


そういって少年……ジョルノは少し考えこむ仕草をして、こくりと頷いた。


「そういうことなら、話を聞きましょう。どうぞこちらへ、お茶をごちそうしますよ」


そういって踵をかえし、歩き始める少年の後に、ふらりとついて行きそうになり、はっと足を止める。


「おい!オレは館の主に……!」

「僕がそうです」


少年は後ろを振り返り、そういった。


「正確には主人の代理……ですが、父はしばらく帰ってこないでしょうから、話は僕が聞きます」


それにブチャラティと約束したのは、僕ですから。

綺麗に微笑む少年に、ぞっと背筋を振るわせる。

虫も殺せないといった風情でありながら、絶対的な強者の余裕に満ちたその微笑に、自分はとんでもないところにきたのではないかという嫌な予感を抱きながら、ミスタはその後を追った。




「それで、どういうことです?たしか僕が約束したのはブチャラティのはずなのですが……」


執事らしい男が淹れた、香りのよい紅茶をひとくち飲み、ジョルノが訊ねる。


「ブチャラティは、ここにはこれない。ブチャラティは皆に必要な奴だ。だからオレが代わりにきた」


そう告げるとジョルノはミスタをじっとみた。


「代わりですか……では、貴方が血を提供してくださると?」


その蜂蜜色の瞳に、捕食者の焼けつくような欲望をみて、背筋に冷たいものが伝わる。


「そ、それなんだけどさ、他の物って訳にはいかねぇの?」


目の前の少年は想像していたのとは違って、どこか甘い匂いのしそうな美少年である。

吸血鬼という文字通りの化け物に血を吸われるよりは抵抗感はなさそうだ。

だがそれでも、己の血が吸われるというのは、どうにも気味が悪い。


「へえ?では貴方はどうやって、ブチャラティの命に匹敵する価値のあるものを、僕に捧げてくれると言うのですか?」


微笑むジョルノを前にして、答えに詰まる。

人の命に、ましてやブチャラティの命に匹敵するような宝など、そうそうない。


「ねえ、ミスタ?貴方は自らの意思で、ここにきてくれた。だから貴方が大人しく僕の餌でいてくださるなら、僕も貴方で我慢してあげます。でも、どうしても、それがイヤだとおっしゃるなら……」


そこでジョルノは言葉をきり、にっこりと吸血鬼とは思えないほど、とても爽やかに微笑んだ。

いったい何をする気なのか?

その先は聞かない方がいいような気がする。

目の前にいるのは自分よりも小さな、まだ子供といってもいいくらいの少年なのに、オレはこいつには勝てそうにないと思ってしまった。

がっくりと肩を落とし、ミスタは己の運命を受け入れた。


作品名:Bellezza 作家名:真輪