Bellezza
運命の人
いい匂いがする。
黄金色の巻き毛が、目の前でチラチラと輝いているのを、ぼんやりと眺めながら思った。
何の匂いだろう?
かいだことのある匂いだ。
ぼんやりと霞む思考のなかで、それがこの館の庭に咲いていた薔薇の匂いだということに気づく。
吸いこむと、まるで香気で全身が洗われるような清々しさと、うっとりと心地よい夢心地になるような甘さを併せ持った高貴な香り。
―――こいつによく似合っている
このまるで夢の世界の住人のような黄金色の吸血鬼の少年に……。
その夢のように美しい少年に、首筋を甘く舐められて胸が高鳴った。
「ミスタ……いただきますね」
蕩けそうな甘いつぶやきとともに、首に硬いものが食いこむ。
「うぁッ!」
脳天を貫く痛み。
けれど一瞬にして痛みは消えうせ、痺れるような快感が全身を駆け巡る。
すうっと血を抜き取られる感覚は、背筋が冷えるような恐ろしい冷たさを持つのに、逆に脳髄は焼けるように熱く蕩ける。
その落差に、このままだと気が狂うのではないかと恐怖を覚えて、けれどこのまま天国へ行けてしまいそうな、危うい浮遊感にしがみつきたくなる。
ミスタにとって幸いなことに、全ては完全に気が狂ってしまう前に終わった。
ミスタの首筋から顔をあげたジョルノは、口に含んだ液体を、ゆっくりと時間をかけて味わうようにして嚥下する。
その白い喉に己の血が下っていく光景を、融けた脳味噌のまま見送って、堪らない渇きを覚えた。
―――スゲー……色っぽい
ミスタの血を飲んだジョルノは、何時もは雪花石膏のように白い頬を上気させ、薔薇色に染めていた。
甘い蜂蜜色の瞳は潤んで融け、更に濃く甘い艶やかな色で輝いている。
強烈な衝動が腹の底から込み上げてきて、その少年の細さを宿した体を抱きしめ、唇に噛みついた。
口づけた唇から香る匂いは己自身の血の匂い。
本来なら気持ち悪いと思うべき場面なのかもしれないが、かまわず衝動のまま咥内を隅々まで舐めまわす。
「……ぅあ……ん……ッア……」
キスの合間に漏れる甘く濡れた声に、ますます煽られて口づけを深くし、その滑らかな肌に直接触れるために掌を服の隙間に潜りこませた。
長すぎるキスに、さすがに息が続かなくなって唇を離すと、ジョルノの唇がオレの首筋に触れる
一瞬また血を吸われるのかと身構えたが、その場所をジョルノは猫がミルクを舐めるように丁寧に舐めた。
ぴちゃぴちゃと耳元で響く音に煽られて、身の内で煮えたつ欲望がぐつぐつと沸騰する。
「ジョルノ……」
もう限界だ。
我慢できねェ。
頭の天辺から爪先まで尋常でない熱量で熱くなっている。
止めらんねー……。
オレは本格的に黄金色の吸血鬼の少年を組み敷いた。
相手は吸血鬼で、その恐ろしさの一端に触れて恐怖した。
こんなことをしたら、殺されるかもしれない。
このまま、オレは死んでしまうかもしれない。
それでも、ここで止まるのは無理な話。
死ななきゃ絶対に止まらない。
理性なんて、とっくに焼け落ちている。
あるのは暴走した本能と、焼けつくような飢餓感だけ。
壊れてしまった思考のなかで見えるのは、譬えようもなく美しい吸血鬼の少年だけ。
それしかない。
それだけでいい。
夢中で貪るオレを、ジョルノは甘く蕩けた蜂蜜色の瞳で見つめ、まるで花が咲くように微笑んだ。
「ミスタ」
響く声の美しさに感動し、胸が震える。
ジョルノ、お前が微笑み、オレの名を呼んだ。
それだけでいい。
この先に待っているのが、人生の終わりだろうと、悔やんだりはしない。
それだけの価値が、お前にはある。
オレはオレの出会うべき運命に出会った。
気が狂いそうに綺麗なお前に、オレの全てを捧げよう。
―――ああ、ジョルノ、お前がオレの運命だったんだ。