Bellezza
後悔
重い沈黙が部屋に満ちていた。
食器のたてる音しかない静かな食卓なんて以前では、とても考えられなかった。
スプーンが転がるだけでも大騒ぎをする年頃の青少年達ばかりで囲むこの家の食事風景は、何時だって無作法なほどに騒がしいのが常態だったのに……。
シンと沈んだ空気をナランチャが破る。
「なあ、ミスタ、今頃、どうしてんだろ?」
カチンと空気が固まる。
「連絡ぐらい、よこせばいいのにさ」
ブチャラティの代わりに、吸血鬼の館にいってから既に一月以上経つのに、ミスタからの連絡は一切なかった。
「もしかして、もしかして、吸血鬼に……」
「そんなことない!」
ナランチャの言葉にトリッシュは悲鳴のような否定の声をあげた。
ナランチャと同じ疑念が彼女の心の奥にもあった。
だからこそ、認めたくはない。
もしかしたら自分達は、とんでもないことを、ミスタに押し付けたのかもしれない。
そう思うと、いたたまれなさに、心が押しつぶされそうになる。
「でも、まったく連絡がないなんて、おかしくありませんか?もしかしたら連絡しようにも、連絡できない状態なのでは?」
吸血鬼の餌として望まれたなら、殺されてはいないかもしれないが、不当な扱いを受けている可能性は十分にありえる。
そんなフーゴの指摘に、沈黙はさらに重くなる。
「こちらから様子を見に行くしかないようだな……」
重々しいブチャラティの言葉に、皆が頷く。
「まずはオレが確認に行こう」
「オレ達も行くよ!」
「いや、もしも全員で行って捕まってしまったら、対処ができない。この場合は、ひとまず斥候を送るのがいいだろう。何事もなければいいが、何かあった場合には、援軍を送らなければならないからな」
「だからってアンタが行く事はねェだろ!指揮する人間が自ら斥候になることはない」
「危険な単独任務だからこそ、オレが行かなければならないんだ。もしも逃げ帰らなければならなくなったら、もっとも帰還率が高いのはオレだ」
「でもッ……」
「それに、もしも彼をオレの不誠実な態度で怒らせてしまっていたなら、オレが謝らなければ意味がないだろう」
「………………」
「何かがあった時のために、ハンターとの連絡先を残していく」
「ハンター?」
「ああ、実は吸血鬼に対抗する力を持った者達がいるらしい」
ブチャラティも、この一月もの間に、吸血鬼に対して、何も対抗策を練らなかった訳ではない。
薔薇を摘むまでは見ず知らずの自分を客としてもてなしてくれた吸血鬼の少年が、悪しき存在だとは思いたくはない。
だが兄弟の命がかかっているかもしれないと思えば、楽観視もできなかった。
唯一の弱点であるという太陽の光以外に、吸血鬼を倒す手段を探して、手にいれた情報が、悪魔狩りとも、吸血鬼ハンターとも呼ばれる存在だった。
なるべくなら、そんな胡散臭い連中とも関わりあいにはなりたくないので、最後の手段にしたいところだが、最悪の事態になって、自分が捕まったとしても、彼らに助けを求めれば、犠牲は自分とミスタで食い止められるだろう。
「ブチャラティ!」
「皆、後は頼んだぞ」