Bellezza
呪い
長い夜が終わり、太陽が顔を出す頃に、ようやく天蓋付きの大きなベッドで寝つこうとする自分。
なんだかすっかり吸血鬼の生活習慣に慣れてしまっていることが、おかしくて笑った。
起きている時は結っている黄金色の髪をほどき、同じ布団に潜りこんだジョルノを腕に抱いて、そういえば……と、昨夜思いついた疑問を訊ねる。
いわゆる寝物語というやつだ。
「なあ、何でお前は、吸血鬼になったんだ?」
寝る前にするには、ちょっと重い話題かもしれないとは思ったが、色々と打ち明けあった流れで訊いてしまった方が、タイミングに困らないだろうと訊いたのだが、それはジョルノにとっては地雷だったようだ。
「どうして……ですって?」
それまでオレの腕のなかで、安心しきった猫のように身体を摺り寄せ甘えていたジョルノの声に、みるみる棘が生える。
「訊きたいですか?」
甘い蜂蜜色の瞳にちろちろと怒りの焔を映して華麗に微笑む恋人の迫力に、この疑問は口に出すべきではなかったかと思った。
だが、こうして一度口にしてしまった以上は、ひっこめる場所がない。
「そりゃ、気になるさ、オマエのことなんだからな」
そう答えるとジョルノは怒りを宿していた瞳に柔らかさを取り戻して、やはり猫が甘えるように胸元にを額を摺り寄せる。
「僕の父は悪人だったんです。というよりも、世間に言わせれば、まるで悪魔のような人だそうです」
ジョルノはオレの顔を見ずに、そう言った。
「世界征服を、本気で考えるような人だと言えばわかりますか?」
世界征服かよ……そりゃ随分とスケールがでかいねェ。
オレみたいなチンピラには、スケールがでかすぎて、想像もつかねーんだけど?
「まあ、それで色々な人の恨みをかったのか、自ら望んだのかは知りませんが、とんでもない呪いがかかったんですよ」
二度と日の光の下を歩けない呪われた体。
そのかわりに不老不死である強靭な肉体。
日光が苦手という以外には、弱点らしい弱点がないそれを、呪いと呼ぶか祝福と呼ぶかは、人それぞれ違うのかもしれない。
だが望んでもいない呪いに巻きこまれたジョルノにしてみれば、己の父親を、それこそ呪い殺してやろうかと本気で考えてしまうほどに迷惑な話だった。
ジョルノを護る聖なる加護の力は、呪われたジョルノを完全な化け物に変えることはなかった。
守護霊に護られた結界のなかで生きる限り、ほとんど普通の人間と変わらない生活を送ることができる。
吸血衝動は性的な衝動と同程度には持っていたが、別に血を吸えなければ死ぬようなこともなく、普通の人間と同じ食事をすれば生きていくことはできた。
けれどまだ若い遊びたい盛りの少年が、辺鄙な場所にある館で、何を楽しみに生きていけというのだろう?
この館にいるのは世捨て人も同然の半死人な吸血鬼の眷属だけ。
生を謳歌する者達は、偶然この館に辿り着いても、自分達が生きるべき場所へと帰っていってしまう。
それは正しいことだと理解しながらも、ジョルノが終わらぬ退屈な日々に飽いていた頃だった。
ブチャラティという男が、この館に訪れたのは。