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drogue

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「フュリー軍曹。全てのチームに通信機は行渡っているのだろうな」
タイムラグもなく速攻、返事が返される。
『大丈夫です。全てに渡されています。皆、大佐の指示を待って待機しているそうです』
「了解だ」
満足そうに答えると、
「貼り付けろ!」
私は通信機に向かって命令すると同時に、発火布を使った手袋をつけた指を弾いた。

練成光があちらこちらで一気に発生する。
シュゥ〜、と空気の抜けるような音がし始め、数分後、建物の中で何かが倒れる音が暫く続く。
その音に耳を傾けながら銀時計を見詰め、そして、音が途切れて3分後
「総員、突入せよ!」
私の命令の元、張り付いていた憲兵・軍人たちが一気に建物内へと突入し、次々と男達を担ぎ出していく。
男たちは皆、失神していた。

「酸素があるから火は燃える。それを逆に応用したのだよ。酸素がなくなれば人は正常な脳機能を果たせないのだから、建物内から酸素を抜き取った。そうすれば奴らは倒れるしかないからな。同時に危険物に火は回らない」
「お見事です」
副官の珍しい賞賛の言葉に、私は心底吃驚したが、片眉を吊り上げるに留めた。

「さて、ブツを回収するとしますか」
長身の金髪をした部下―ハボック少尉。今はトレードマークの銜え煙草が無い―が運び出される男たちと逆に建物の中へと足を踏み入れた。
建物の中は果物が熟しすぎた時の様な香りを充満させていた。


 今回の事件
シン国から非合法に持ち込まれた材料を使って、大規模に麻薬が精製されると言うものだった。

ここ東方はシン国に近い事もあり、早急に生成してアメストリス内へばら撒こうとした組織は、建物一棟を完全に手中に収めて作業をしていたのだが、イシュバール戦線で麻薬に接した事のある退役軍人から東方司令部に通報があり、今回の捕り物となったのだった。

「連中も馬鹿ですよネェ。大佐のお膝元でこんな事、成功するわけないでしょうに…」
いささか下腹が目立ちだしたブレダ少尉がそう零せば、
「早くゲンナマがほしかったんでしょうな。そしてその金でテロに使える武器を入手する。それが彼らの本来の目的だったようですよ」
と、糸目の長身のファルマン少尉が解説した。
「通報者には金一封を渡さねばならんな。彼のお蔭でテロ行為を未然で防ぐ事が出来たのだから」
部下の後について建物に入った私は、ふと足を止めた。

「大佐?どうなさいました?」
いきなり行動を止めた上司にホークアイ中尉が怪訝そうに視線を向ける。

「……いや……」
ロイはそう返事を返しつつ、心の隅に引っかかった棘の様なものに気を取られた。

“最近、此の香りを、何処かで…嗅いだ……。どこだった?”

記憶を攫ううちに行き着いた事象に、ロイの表情が不快な物に変わっていく。それをホークアイ以下部下達が不安げに見詰めていた。

「中尉。鋼のが何処にいるかわかるかね」
金属が軋むかのような不快感を漂わせた言葉がロイの口から吐き出される。
「は?エドワード君、ですか?」
「そうだっ!鋼のは今何処にいる!!」
険しい表情で問いかけて来る上司の瞳に焦燥が見て取れた優秀な副官は、すぐさま記憶を探り、答えを導き出した。
「イーストシティーの常宿に連泊していると記憶しております。昨日、街中でアルフォンス君に出会いましたので…」
「そうか!すまないが、この場の後片付けは君に一任する」
踵を返す上司に、副官が説明を求めたが、翻された背中は元には戻らなかった。
「私は至急、鋼のに会わねばならない!」
私はそれだけを告げると、後ろを振り返る事も無く一目散にエルリック兄弟が泊まっている宿へと駆け出した。
2010/07/31




「エドワード!アルフォンス!居るのだろう?!ここを開けたまえ。エドワード!…鋼の!」

私は宿屋の女将が教えてくれた部屋の前で扉を連打していた。

 エルリック兄弟が常宿としている宿の女将は、飛び込んできた東方司令官に、戸惑う間もなく彼らが在室している事を教え、部屋番号を伝えていた。それほどに司令官の形相は厳しく、同時に焦燥を顕わにしていたのだった。

 「開けろ!エドっ!アルフォンス!」

激しく叩かれた扉のカギがカチャリと開錠され、大きな鎧姿が扉の中からひょこりと覗く。
「大佐?どうし……」
アルフォンスの疑問に答える間もなく、私は室内へと身体を捻じ込んだ。

室内には甘く饐えた果物の匂いが充満している。

「アルフォンス。エドワードは、鋼のはどうしている?!」
「えっ?兄さんですか?」
私はアルフォンスの答えが返されるのを待っているのももどかしく、室内を見回した。

 入口からベッドがすくに見えないような配慮がなされた客室ゆえに、入口付近では状況が把握出来ない。
私は奥へと足を踏み入れた。すると視野にベッドへ仰臥したエドワードの姿が飛び込んできた。

床上に散らばる金糸

かさついた唇に表情が抜けきり白さを通り越した顔色

目の下には青黒い隈が出来ている

「これは!……どういう事だ!アルフォンス!!」
私は鎧に掴みかかる勢いで問い掛けた。
「あ……あの…。兄さん、最近、寝てばかりなんです。起きても食事を碌に摂らないし、状態を訊ねても、何ともない、心配するなって……。でも、ここ二日ほど、ほとんど目を覚まさないんです。昔も寝続けたりした事あったから、今回もそれかなぁ…って思っていたんですけど、ちょっと、変…だなぁとは…」
「鋼のは、ここに来る前、何処に寄って誰に会った」
「僕達が、ですか?……イーストシティより更に東の砂漠の付近まで行きました。でも、暑すぎるから機械鎧が熱しすぎて生身にまで影響が出ちゃったから、引き返してきたんです。その途中で行き倒れかけてたアメストリス人を助けました…けど」
「そいつから何か手渡されなかったか?!」
「えっ?」
「鋼のが、何か受け取りはしなかったかと訊いている!!」
私はなかなか欲する答えに行き着かない事に苛立ちを募らせていた。
「ああ、そう言えば…」
「そう言えば?!!」
「何だか、その人、薬関係を扱っているとかで、兄さんに痛み止めに効く軟膏をくれました。機械鎧は神経の痛みを生じる事があるだろう?って言って…」
「それは何処に置いてある!」
「そこのベッドチェストの一番上の引出しの中だと思いますけど…。あの、それが、何か?」

私は返事を返すより先に、引出しを開けた。
磁器製の軟膏壷がコロリと出てくる。それを開けてみると、香りは更に強くなった。そして、壷の中身は半分以下に減っている。

「ええっ?兄さん、こんなに使ってたの?!」
アルフォンスも壷の中の状態に吃驚するが、彼の兄が現在置かれている状態にまでは理解がおよんでいなかった。

「アルフォンス。何でもいい。鋼のを縛れる紐を準備してくれ!」
「ええっ?!し、縛るぅ?…た、たいさ、あなた、なにを…」
「いいから!私を信じて、紐を準備してくれ。そして、それが準備できたら、君は一晩、中尉かハボックの処へでも行ってて欲しい」
作品名:drogue 作家名:まお