惚れ薬と恋心
それから1時間ほどが経過したころ、事態は大きく変化することになる。
お茶会に呼ばれていたものの、仕事で遅れていた静雄が到着したのだ。
『入れ入れ』と部屋に通された静雄が見たものは、ソファにちょこんと腰かけているアイマスクの少年だった。
とっさに「え、何のプレイ?」とさすがの静雄も一瞬考えた。
部屋に人が入ってきた気配を感じて、帝人も見ることはできないが入口のほうを振り向く。
「あ、えっとセルティさん?」
「竜ヶ峰?何やってんだそれ」
ズンズンと大股に帝人へと近づく。
『あぁ静雄、実は』
とセルティがPDAに表示して見せようと打ちこんでいる間に、実に気軽に静雄は帝人のアイマスクを、ひょいと指にひっかけて取り上げた。
帝人の大きな目が静雄の姿を映す。
「ってなんだアイマスクだったのか。何かあったのかと思ったぜ」
「し、静雄さん・・・・」
「ん?どした?」
『なんてことするんだ静雄!!見たのか!?静雄を見たのか!?』
セルティが大慌てでPDAを静雄と帝人に見せようとするが、静雄はともかく帝人の視線は揺るがない。
揺るぎなく、ひたすらに静雄を見つめていた。
幼い顔がさらに幼く見えるような、びっくり眼で見つめられている静雄が、セルティの剣幕とも合わさって一歩足を引いた。
「な、なんだ?」
なんだじゃない!とセルティに首があったら叫んでいただろう。
だが事態はどうしようもなく加速していた。
そして、新羅の実験がとても上手くいっていたことが、きちんと証明されてしまった。
「・・・・・・あの・・僕、静雄さんのこと、好きです」
「・・あ?」
じわじわと帝人の頬が色を赤へ変えていく。
目は自然に潤み始め、ソファから身を乗り出した。
(静雄さん・・・カッコいい、背高い、綺麗、強いし非日常・・・静雄さん、静雄さんって完璧に僕のタイプだったんだ!理想の人だ!静雄さん!静雄さん!!)
帝人の脳内は静雄一色になっている。
通常の帝人なら、静雄が男であるという何よりも強力な一点でもって、『タイプ?いくら非日常でも男だよね』と切り捨てられるが、現在惚れ薬によって思考を変えられているため、
(今までどうして気付かなかったんだろう・・・こんなに僕の理想に合った人が身近にいたなんて・・!)
になっている。
目をキラキラさせて見上げてくる帝人を前に、
『しまった・・・・私のミスだ・・・・・どうしようどうしよう』
とPDAに打ち込んでは消しているセルティを後ろに、静雄は叫んだ。
「っすきなんです!!」
「お前どうした!?なんなんだ一体!?」
三者三様の混乱は、その物音を聞きつけた新羅によって説明がなされるまで続いた。