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惚れ薬と恋心

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トムはそうして諦めに入っていったが、まだ諦めきれていない人間もいた。

「先輩・・・っいい加減僕のことも構ってくださいよ!放置プレイもそりゃ興奮しますけど、そのためにはそれ捨ててください!」

例によって例のごとく廃工場に集まっていたブルースクエアのメンバーは、その総長たる帝人の足元に縋りつく青葉の姿を見てげんなりしていた。
帝人が惚れ薬によっておかしくなってからというもの、青葉主催で会合を開いては実のある会話の一つもできず解散、という流ればかりだった。

「・・・・・ん?何か言った青葉君?」
「せ、先輩っ、返事してくれたのは1日と2時間17分ぶりですね!」
「・・・・・ん?何か言った青葉君?」
「ちょっ、そのどうでもよさそうな口調、最高です!!」

帝人を総長に据えてからというもの、青葉はどんどんおかしくなっている。
それこそ惚れ薬を飲んだ帝人以上の成長っぷりだった。

「今日も俺ら意味なく集められた系かなー・・・」
「ヒヒッ、暇だしいいけどよ」
「つかもう青葉サメっつーより犬だよな。まぁそれも面白いけどよ」

思い思いに工場内に散らばっているメンバーが、2人を観察しながら話し合う。
大抵終わりは「面白いからそれでいいや」で締められるのだが。

今帝人は青葉が持ち込んだ椅子に腰かけ、目をそらすことなく一心に手の中の写真を見つめている。
一体どうやって撮ったものか、映っているのは平和島静雄だった。
視線がカメラに向いていないので、盗撮写真だと思われる。
いつものバーテン服姿のそれを見て帝人は、ほぅ・・っと熱い息を吐いた。
その声に、帝人の足元に座り込んでいる青葉が体を震わせる。

「せんぱーい、マジでそろそろ僕と遊んでくださいよ。その熱い吐息、僕も欲しいです」
「・・・・・・」
「先輩先輩帝人先輩。ブルースクエアの活動について話し合いましょうよー。あ、それが面倒なら別にいいんですけどね?ほら、今度遊びに行きませんか?水族館とか好きでしたよね?ねー、先輩」
「・・・・・・」

もう返事すらしなくなった帝人に、小声で呼びかける。

「・・・・・・・・せんぱーい・・・帝人先輩・・・・僕の帝人先輩」
「誰が君のだって?いい加減なこと言うと、今度はその舌を刺すよ」
「あぁん先輩っ!返事してくれたのは1日と2時間21分ぶりですね!しかもそんなツンデレ、嬉しいです!」
「青葉君に対してデレはないよ。それに僕忙しいんだけど」
「先輩が僕の名前呼んでくれるだけでデレです。あと先輩、全然忙しそうに見えないです」
「何言ってるんだ!」

帝人が久しぶりに写真から目を離して叱咤する。
青葉は自分を見てくれることにときめいていたので、あまり怒る意味もなかったりするのだが。

「僕の時間はすべて静雄さんのためにあるんだよ青葉君、わかる?こんなに理想の人が、完璧な存在がいたなんて・・・あぁ今まで僕は馬鹿だった。はぁ・・・静雄さんなんでこんなにカッコいいんだろう・・・・」

うっとりと呟いて写真を撫でる。
ちなみにこの写真をくれたのは狩沢だ。
『ぬぁんて美味しい状況・・・っ!応援するわ!!』という絶叫とともに帝人に握らされたものだった。
隣で遊馬崎が細い目と眉を八の字にして、心からすまなさそうにしていた。
帝人に迫られている静雄を発見した門田が話を聞き→遊馬崎→狩沢の順で、この惚れ薬の一件が伝わってしまったためだ。
池袋の最後の良心である門田の親切心による口止めは役割を果たさなかった。

「っていうかそれ惚れ薬のせいでそう感じてるだけだって、先輩わかってるんですよね?」

悔しげに恨み口調で話す青葉に、帝人は軽く「うん」と頷いた。

「僕も惚れ薬飲んだことも覚えているし、静雄さんのことそういう意味で好きだったわけじゃないってのもわかってるんだけど・・それでもほら、こんなにカッコよくて非日常的な人なんだよ?」
「男ですよ?」
「う、うん、わかってるよ・・・・社会的に認められないってことだよね?どの国に行ったら結婚できるんだっけ?」
「わかってないですよ先輩!僕が言った意味とちょっと違いますよ!男は恋愛対象外じゃないんですか!?」

キャンキャンと喚く青葉の頭に手を乗せると、写真を見ていた時の幸せそうな顔とは一変して

「うるさいって言ってるよね。刺すよ」

冷たい瞳で無表情に告げる帝人に、青葉は満足げな表情で

「望むところです!!」

と返していた。
廃工場が青葉以外の全員の重苦しい溜息で暗く沈む。
ブルースクエアの会議は、この一件が収まるまで出来そうになかった。

作品名:惚れ薬と恋心 作家名:ジグ