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惚れ薬と恋心

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静雄の心労がそろそろピークに達し、「いっそ付き合うって手段もあるのか!?いやだけど・・!」とまで追い詰められ始めたころ、セルティ渾身のボディブローと泣き落としによって極限までやせ細り隈が浮いた新羅によって、解毒剤が完成した。
逆にブルースクエアによるダラーズ内の粛清は収まりを見せていた上に、某新宿の情報屋が遠方へ出張に出ていたため、静雄と帝人の2人に関わりのない池袋の大部分の人々にとってはこの数日間はちょっとした平穏に包まれていたが。
『解毒剤。できた。すぐこい』というチチキトクスグカエレ並みのメールをもらった帝人と静雄は、セルティの家にやってきていた。

ちなみに解毒剤を渡された帝人による

「僕、静雄さんのこと好きじゃなくなっちゃうんですか・・?そうしたら、静雄さん僕のこと好きになってくれますか?」

ずっと、僕に困ってること知ってたんです・・・と涙を浮かべて右腕に抱きつくようにしてすがる帝人に、静雄が意識を飛ばしそうになるというちょっとした事件はあったものの、無事に帝人に解毒剤を飲ませることに成功した。
新羅の「飲まない方が帝人君に好きでいてもらえるんだよ静雄!」という叫びは、言った直後にセルティによって物理的に沈められたが。

『とにかく飲め帝人。そして一度正気に戻るんだ』
「う・・・っ、まず!惚れ薬はちょっと変わった味の紅茶だったのに、なんで解毒剤は漢方薬の味するんですか!?」
「い、いいから、いいからー」
『飲むんだ帝人!』

コップ一杯の緑色の(味は漢方薬)液体を必死になって飲み込む。
祈るように見つめるセルティと静雄の前で、空になったコップがテーブルに置かれた。

「ど、どうだ!?」
『ほら静雄だぞ、好きか!?』
「どうなんだ!?治ったのか?治ってねぇのか!?」
『新羅の奴が失敗したなら今すぐ作り直させるぞ帝人!どうする!?』

ぐっと身を乗り出して質問責めにしてくる2人に、帝人はきょとんとした顔を向けた。
そして何かを思い出すように天井のほうへ一度目を向けて、

「し、静雄さん・・・!!」
「どどどどうした帝人!?」

混乱しすぎている静雄の二の腕を、小さな手ががっしりと掴む。

(も、もどってねぇのか!?)

焦る静雄をよそに、帝人は顔を青くして

「す、すみませんでした・・っ!!」
『帝人!戻ったのか!?』
「セルティさん!は、はい大丈夫です!」

喜び合う2人。
するりと腕から手が離れ、セルティとハイタッチをしている。
静雄はようやく脳に情報が伝達されたのか、ゆっくり長く息を吐いた。

『よかった、もう本当に一時はどうなることかと!』
「えぇ全くです。でもすごいですね、記憶もちゃんと全部あります。まぁ・・・今までの自分の行動が思い出されて居た堪れなくてたまりませんけど・・・」

晴れ晴れ話していた帝人が、申し訳なさそうに静雄を見る。
それに首を横に振って答えてやると、安心したようにふにゃりと笑った。

(?いま、なんか・・・)

変な違和感を胸に感じた静雄は、小首をかしげた。
帝人のあんな笑顔は、惚れ薬を飲んで以来ずっと見てきたというのに、何か妙な感じがした。
その感じは、次の瞬間もっと大きなものとなって静雄を襲った。

『じゃあ静雄のことはもう好きではないんだな』

と打ったセルティに対して、

「はい。静雄さんのこと、好き、じゃない・・です。安心してください!」

帝人の言い放った言葉に、静雄はなぜか卒倒しそうになった。
脳がグラグラと揺れる感じがする。
胸の違和感はさらに拡大していって、顔を引きつらせる静雄の様子に気付いた帝人が、慌てて手を振った。

「あ、ち、違いますよ!?ちゃんと友達としては好きですが、その、恋愛感情はもうちゃんと・・な、なくなりましたって意味で・・!」
「・・・あ、あぁ・・・わかってる」

(なんで、俺こんな変なんだ?)

胸を押さえて俯く静雄には、切なそうに少しだけ目を細める帝人の顔は見えていなかった。

作品名:惚れ薬と恋心 作家名:ジグ