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惚れ薬と恋心

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それから静雄は街へ出るたびに、来良の制服を探してしまう自分に気付いた。
正確には来良ではない、来良の制服を着たたった1人を探しているのだ。

(おかしい・・・なんでこんなに竜ヶ峰を探しちまうんだ・・?)

見かけたところで、会ったところで、何があるわけでもないのに、なぜか目が辺りをうろついてしまう。
帝人が解毒剤を飲んだ時の、あの違和感が忘れられないのだ。

今日は仕事が早く終わったので、ちょうど来良の帰宅時間とかぶっている。
上手くいけば今日こそ会えるかもしれない・・そんな思いをかかえ、街をぶらつく静雄の目に小さな黒髪の少年が映った。

「りゅ、りゅうが・・・」

みね、と続くはずの言葉はそのまま喉奥に飲みこまれた。
遠くのほうで立ち止まった帝人は、誰かと楽しそうに話をしている。
静雄の視力では相手の姿まで良く見えた。

(あれは・・・あいつそういや門田たちと仲良かったな)

テンションの高い狩沢に愛想笑いを浮かべ、遊馬崎がフォローを入れたのか安堵する様子が見える。
そのまま門田に頭を撫でられ、くすぐったそうに笑っている。
帝人の表情を見て、静雄は無意識にぐっと拳を握りしめた。
そして運転席にいるのだろう渡草に一礼して、手を振って帝人は静雄とは逆方向に去って行った。
その様子を静雄はただ眺めていた。
理由はわからずとも、帝人に会いたかったはずなのに、帝人の笑顔を見ればなぜか足が全く動かなかった。

(あいつ、俺じゃなくてもあんな顔するんだな・・・)

当たり前のはずなのに、それがどうしてか悔しくて、悲しくて、静雄はベストの胸のあたりをギュッとつかんだ。


それから数日間、帝人を探すたびに、誰かとともにいる姿ばかりを目撃した。

(くそ、あれは後輩か?べたべたしやがって)
(セルティ・・・いや、別にいいじゃねーか。なんだこの感じ)
(確かあれは園原・・だったか。付き合って、ん、のか?)
(友達にしちゃ近すぎんだろ、クソ、離れろ)

帝人に誰かが近づくたびに、イライラがつのっていく。
酷い時には「そこには俺がいたはずだ」と叫びたくなってくる。
この感情が何なのか静雄にはわからず、ただひたすら自分の感情に耐えるしかなかった。
そしてその感情の高ぶりがピークに達したころ――折原臨也と出会った。


「いぃざやぁぁああぁぁぁっ!!!!殺す殺す殺す!!!」
「はははっ、シズちゃんこそ帝人君に嘘でも惚れられやがって!俺が忙しくて池袋に来れなかったっていうのに、帝人君はシズちゃんに夢中でチャットにも来てくれなかったし!うらやましいんだよ、そっちこそ死ね!!」

突然ナイフで切りかかってきた臨也に対抗して自販機を投擲する。
あっさりそれを避けられたことよりも、臨也が言った内容に静雄は自分でも異常だと思うほどに動揺した。

「んなっ、りゅ、竜ヶ峰は大変だったんだぞ!その、お・・・男、なんか好きになって可哀そうだろうが!」

そこで、「俺なんか好きになって」と言いそうになって寸前で男と言い換えた。
本当は「俺なんか」でも良かった。だけどそう言ってしまったら、あの時の帝人の笑顔を裏切るような気がして言いたくなかったのだ。

(嘘、嘘じゃなかった。あの時だけは、あの笑顔だけは、本物だったんだ・・!)

たとえそれが惚れ薬によるものだったとしても、嬉しそうに幸せそうに笑ってくれていた帝人は本物だった。
もうなくなってしまったそれを思うと、ただ叫びだしたくなる。
その感情は誰と喧嘩しても、自販機を投げても、街灯を折っても、収まることはなかった。
複雑そうな顔をする静雄を憎々しげに眼光で射抜きながら、臨也は吐き捨てる。

「全くだよね!どうせ好きになるなら俺を好きになればよかったんだ!そしたら今だってずっとラブラブだったのにさぁ」

そう言って自らの体をギュッと抱きしめる臨也に、さらに脳内でプチプチと音を立てて自分の何かが切れていくのがわかった。
臨也の妄想だとしても、その腕の中に帝人を抱きしめているのだと思うと縊り殺したくて仕方がない。

「・・・っ惚れ薬の効果が切れりゃフラれんだろうが!」

(俺がフられたみたいに、ずっと好きでいてくれるわけじゃ、ねぇんだよ!)

そう思うと苦しくて苦しくてたまらなかった。
「静雄さん」と名前を呼んで、笑顔で側に駆けてきてくれた帝人はもういないのだ。
身を切る思いで告げた言葉に、臨也はハッと鼻で笑った。

「何言ってんの!?そんなの関係ないよ!最初が惚れ薬だろうが、俺は俺を好きにさせる自信あるからねぇ!あ、シズちゃんには到底無理かぁ!お前みたいな化物、惚れ薬せいだからって嫌だっただろうね帝人君!あぁ可哀そうに!!」
「て・・っめえぇぇっ!!今日こそ殺す!本気で殺す!マジで殺す!!!」
「やれるもんならやってみろよ。自分の気持ちもわからない人外の生き物、ここで死んだ方が帝人君のためだってさぁ!」

その日の戦争は、かつてないほど激しいものとなった。
おびただしいほどの血を流す静雄と、失血量は静雄に比べて少ないが骨の3本は折れただろう臨也の戦いを止めたのは、やはり2人の間に割って入れる人間、サイモンだった。
悪態をつきながらも、これ以上は危険と考えて臨也は身をひるがえす。

「冗談じゃないよ、ホント・・・シズちゃんなんか帝人君にフラれて傷心自殺すればいいんだ」

言い捨ててフラフラとした足取りで去っていく臨也の姿に、静雄は眼を見開いた。

「俺・・もうフラれてん、だ・・ぞ・・・・いや、そうか、まだか」

好きじゃない、と帝人に言われたのは、惚れ薬の効果が切れたことを示すためだった。
もう恋愛感情じゃないから安心して、と帝人は言っていた。
決して静雄から告白して、それを断られたわけではない。静雄は告白したことはないのだから。

(だけど、今、俺なんっつった・・・?まだ、だ。そう・・・まだ、なんだ)

血の流れる頭を抱え込む。
痛みなんてもとよりそれほど感じていなかったが、完全に痛覚が消えた気がする。
その代わり襲ってきたのは羞恥心だった。

(あぁ、そうか・・・俺、竜ヶ峰が好きになってたのか・・・だから、門田とかあいつの友達に嫉妬して、臨也の言葉にキレて・・・!)

恋を自覚して呻く静雄に、

「怪我ひどいネー?医者行くといいヨ!デモ、不治の病、草津の湯でもー医者でも治せないネ!!安心するといいヨー!」

ハハハ!と笑うサイモンに「安心できねぇよ」と答える気力もなかった。

作品名:惚れ薬と恋心 作家名:ジグ