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惚れ薬と恋心

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臨也が新羅の家へ歩き出したころ、帝人はとある公園のベンチで血まみれの静雄を発見していた。
人々が公園へ入ってはすぐに青い顔をして出ていくので、不思議に思い覗いてみればその状況だったのだ。

「し、静雄さん!どうしたんですかその怪我!?と、とにかく新羅さんに・・!」

慌てて携帯を取り出す帝人に、「いや、いい」と短く静雄は断った。
あまり長く帝人と冷静に向き合う自信もなかった。
それは帝人も同じことだったが、そんな状態の静雄を1人置いていけるわけもない。

(断られても、嫌われても、なんだっていい。この人が幸せになってくれる道を、僕は選びたい)

ベンチに腰掛ける静雄の前にしゃがみこむと、ためらいながらもそっと投げだされていた手に触れる。
ビクッと一度震えたが、そのまま抵抗する様子がないことを確認すると、その手を軽く引いた。

「先日は、本当にご迷惑をおかけして、すみませんでした。その・・その時のお詫びも兼ねて、手当させてください」
「・・・あ、いや、迷惑なんかじゃ、ねぇよ。あー、だからんな気にしなくていいから・・・もうほとんど治ってるしな」
「僕が、手当したいんです!怪我、している人放っておくなんて、嫌なんです」

軽く潤んだ目で見つめられてしまったら、静雄には断る術なんてない。
元より気持ちを自覚したところである。すべてこれからだというのに、出だしで嫌われてしまったら口下手な静雄には誤解を解くこともできないだろう。
それでも帝人の側に自分が行ってもいいものか逡巡する。
臨也の言った「惚れ薬せいだからって嫌だっただろう」という言葉が思い出された。
静雄から見れば帝人は完全な被害者だ。アイマスクさえ取らなければ、静雄を好きになることもなく済んだのだ。

「どうしても、僕に手当されるのが嫌だったら・・・振り払ってください。僕非力ですから、静雄さんじゃなくても簡単に振り払えます、よ」

そっと手の上に置かれている帝人の静雄と比べて小さな手が震えている。
それをどうしたって、静雄には振り払うことなんてできそうになかった。
もともと、帝人を振り切ることなんて最初からできていなかったのだから。

(そうか、好きって言われても本気でこいつから逃げようとか、惚れ薬の効果が切れるまで会わないようにとか、そんな考えすら俺は持ってなかったんだな)

トムに相談した時だって、いつだって静雄は惚れ薬に罹った帝人を正面から受け止めていた。

(最初から、俺はこいつが特別だった)

サングラスの奥の優しい目を見つめて、帝人は悲しかった。
本気で静雄のことが好きなのだ、と告げたらきっと嫌われてしまう――
それでなくても、この惚れ薬騒動で静雄が弱いものを振り払えない性格だということも、帝人のアプローチに困っていたことも知っているのだ。
自覚したとたんに失恋する、という痛みに帝人は耐えるしかなかった。

「振り払うとか、できるわけねぇだろ」

泣き笑いのような困惑の表情を浮かべる静雄に、帝人は顔を曇らせる。
この弱い外見を使うことを良しとしたこともないが、こんな罪悪感を感じるものだとは思わなかった。
静雄も、あの時の帝人を相手にする時はこんな気持ちだったのかもしれない。

(そんな優しいことを優しい表情で言ってくれるから、僕はあなたを諦めきれない・・いっそ突き放してくれたらいいのに・・・)

嫌われたくない、だけどこちらから嫌いになれないから嫌いになってほしいなんて、相手に押しつけようとする自分の気持ちがイヤになる。

「・・・なら、手当させてください。静雄さんには本当にご迷惑を――」
「迷惑じゃねぇ。俺は、お前のアイマスク取ったのが俺でよかったと思ってんだ」

その言葉に帝人は目を見張った。
なんて懐の大きな人なのか――それとも、と心が騒ぎたてる。

「で、でも・・・同性に好きって言われて、喜ぶ人なんて」
「俺は、嬉しかった。いや、嬉しかったんだってことにさっき気付いた」

自分の手の上に重ねられている帝人の手が震えている。
その手を握り返したかったが、握りつぶしてしまうかもしれないと不安で、自分の拳を握りしめることしかできなかった。
見つめ続けている帝人の目が、次第に涙で濡れていくのがわかった。
静雄にとって、これが最後の気持ちを伝える時だ、とその浮かぶ涙を見て覚悟を決める。


「たぶんお前が俺に好きって言ったあの時から、ずっとお前が好きなんだ」


言いきった静雄の口から、ほっと息が漏れる。
少しだけ肩の力が抜けた気がした。
逆に帝人は凍りついたように動かない。
その様子に、静雄は諦めたように静かに微笑んだ。

「・・・・・わりぃ、忘れてくれ」

そう言って、帝人の手をどかそうと身じろぎをすると、帝人の口から信じられない言葉が発せられた。

「いや、です」
「は?」
「絶対、ぜったい、忘れません・・・・あの、聞いてくれないんですか?」

泣きだす一歩手前の表情で、帝人は静雄の膝へ身を乗り出した。

「好き、なら、もう友達じゃなくて、とか、ないですか?」

必死なのは帝人も同じだった。むしろ帝人のほうが必死だった。
静雄は言うだけ言って、もう諦めムードに入ってしまっている。
それを何とか引きもどそうと、帝人は訴えかけた。
その言葉をようやく理解したのか、静雄の頬が赤く染まっていく。
あー、と意味のないうめき声を発し続けていたが、ようやく覚悟を決めたのか帝人と視線を合わせる。


「・・・あ、あー・・・・お、俺と、付き合って、くれね・・くれま、せんか?」

「は、はい・・・喜んで!」


そう言って帝人はぎゅぅっと静雄に抱きついた。

「っ血!血が!りゅ、竜ヶ峰、離れろ!ぉおれ、いま血まみれで・・!」
「嫌です。離れません。絶対、ぜったい、離れませんーー!」

ぎゅうぎゅうと首にしがみついてくる帝人に、慌てていた静雄だったが、その小さな体の感触にたまらなくなって背中に腕をまわした。
細い腰を持ち上げて自身の膝の上に抱きよせる。
すんすんと可愛らしくしゃくりあげている帝人の背を優しく撫でると、その目元に軽く唇を落とす。

「もう惚れ薬、ないんだよな?お前、マジで俺のこと好きなんだよな?」
「し、静雄さんこそ・・・ここに来る前に惚れ薬飲んだとか、ないですよね?」

耳元で告げられる声に、お互いくすぐったそうに笑った。

「安心しろ、さっき会ったのは臨也の野郎だ。絶対にねぇ。俺は心の底から、お前が好きだ、竜ヶ峰」
「僕も、です!あの惚れ薬を飲んでからも、解毒剤を飲んでからも、ずっと静雄さんが好きです」

惚れ薬を飲んでいた時と同じ、いや、それよりもさらに明るい笑顔の帝人が、こつんと静雄の額に自身のそれを合わせる。
その笑顔を見て、ようやく静雄は心から安堵した。


穏やかなその気持ちは、傷の手当てに向かった新羅の家で臨也とはち合わせることによって、無残に砕かれることになるのだが。

作品名:惚れ薬と恋心 作家名:ジグ