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心の重みを天秤にかける

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気持ちの重みを知った、あの日の僕等。











『最近さ、静雄、変わったよね。』

大学構内のとある教室にて、先程まで講義があった為に俄かに騒がしい中、スッ、と差し出されたノートの端に書かれた落書きと言葉に、静雄は眉を寄せた。

「あっ?」

『だって、前なら、ノートテイクして「有難う」なんて、言ったりしなかったでしょ。』

 続いて手話に切り替えた眼鏡の青年、静雄の幼馴染にして静雄の唯一のテイカー協力者、岸谷新羅は、肩を竦めて静雄を見た。

『まぁ、雰囲気が変わったなぁ、と思ったのは結構前からだけど。』

普段は見下ろす事の多い視線が丁度同程度の高さにあり、静雄は真っ向から新羅の目を受け止める事となってたじろいだ。
そうした静雄の様子に、苦笑を洩らすと新羅は次の講義の支度を始める。
慌てて同じ様に片付け始めた静雄だったが、新羅の言葉が心を占めて、結局手を止めて考え込んでしまった。
変わったと、言われて真っ先に浮かぶのはあの―――・・・

肩を叩かれうっかり静雄は手を止めていた事に気が付き、「悪ぃ」と謝罪する。
そして。

「お前が、俺を変わった、っつーんなら、俺を変えてくれた何かが、あったんだろうな。」

自然と、優しくなる静雄の気持ちと表情が、新羅に答えを伝える。
漸く他人と向き合う事を避けていた静雄が、誰かに対して傷付いても良いと言う覚悟が出来たのかと、ほこりと心が温かくなる。
だがそれも一瞬で、ニマリと悪戯っ子の様な顔を浮かべると、静雄に向かってこう言った。

『なんだい静雄。ひょっとして好きな人でも出来た?あっ、もう恋人同士にでもなったの??』

いやぁ、春だねぇ、と言って浮かれる新羅の言葉に、静雄の顔はどんどんと赤味を増していく。
次第には嫌な汗まで噴き出てきてしまい、危うく新羅の首元を掴んで捻り上げそうになってしまった。
それは寸でで抑え込んだものの、暴発する思考と鼓動を沈めようとした声は、教室中に響き渡るのではないかと思わせる程、大きなものとなって口から飛び出た。

「なっ、なっ・・・!ちっ、違ぇ!!帝人は、アイツはそんなんじゃねぇ!!!」

ぐわんと、室内全体に反響した声に、自分が驚く。
羞恥に周りを見渡すと、退出し損ねた学生が静雄を見て瞠目していた。
が、静雄の恫喝するかの如き眼力に慄いて我先にと出て行く。残ったのは2人となった。
シンと静まった室内で、他学生よりも目の前の相手の反応が気になる静雄は恐る恐る新羅を見たのだが、浮かべた表情は、想像したモノとは全く違っていた。
てっきり、ニヤニヤとからかう様な笑みを浮かべていると思っていた。だが現実は、目を見開いて此方を凝視している。

「しっ、新羅・・・?」

怪訝に思い、思わず静雄が目の前で手を振ると、ゆっくりと新羅は両手を上げ、形作り始める。

『静雄、帝人君と、知り合いだったの?』

そこに現れた名前に、今度は静雄が目を見開く番だった。

「はっ、あ? んで、お前が帝人の名前を・・・」

言うべきか否か、新羅は一瞬迷う素振りを見せ、決心したようにのろりと手を動かした。

『僕の知り合い、って言うか、セルティの友達。だから僕も会って話した事あるし、偶に家に遊びに来る。』

齎された情報はこれだけで、何故だか直感で、静雄はそれが表面層のみのものだと悟ったが、これ以上踏み込む事は、帝人の隠したい部分を暴く事になりかねないと、どうにか納得する。

「あぁ、そっか。ふぅん・・・」

何はともあれ、旧友の腐れ縁新羅やその恋人にして静雄の友人、セルティと帝人が知り合いであるなら、また話題が増えたなと、その程度で満足しておく事にした。
この時、新羅に事の真相を問わずにおいた事を、後に静雄は後悔する事となる。





 +++++





 静雄と帝人の初邂逅から、凡そ5ヶ月が経過していた。
互いの関係は良好である。ように見える。
が、幽の見る所によると、まだどちらも何かが引っ掛かっている状態で、あと1歩が踏み出せないのだと言う。
特に、静雄は耳が聞こえない、と言う事に劣等感を抱いている節があるので、その点で思い悩む事が多いようだった。
それでも、幽を交えて3人、上手くやっている。少なくとも、彼等を取り囲む人々は皆、そう思っていた。
相も変わらず幽は学校に楽しく通っているし、静雄の喧嘩の頻度は減って来ていたし、帝人もまた、静雄や幽が自分との縁を保ってくれる事をとても嬉しく思っていた。



 そうして、正月。
事は、帝人から静雄、幽両名に宛てて送られた、一通のメールから始まった。



「やっぱり三箇日過ぎたとは言え、混んでるなぁ。」

冬の鋭利な空気と、人々が醸し出す微かな熱気を肌に感じ、帝人は白い息を吐いて手袋を填めた両手を擦り合せた。
マフラーにコート、下はセーターにインナーにホッカイロと重装備の帝人とは違い、基礎体力の違いか、鍛え方が違うのか、平和島兄弟の服装は帝人からすれば随分と薄着に見えた。
『寒くないんですか?』
最近では共に勉強している幽にも分かって貰えるだろうと(彼の今まで兄との会話手は主に筆談、携帯電話を通じてのものであった)、手話で2人に話し掛ける。
ふるり、と首を横に振る幽はやはり新年明けども表情をあまり変えないし、静雄に至っては眠そうな顔をして「寒いか?」、と寧ろ首を傾げた。
自身の貧相具合を突き付けられた気がして、新年早々少し気落ちさせた帝人だった。


<<もし良かったら、新学期が始まる前に、一緒に行きませんか?>>

兄弟の下に同時で送信されたメールは、"初詣"と言うタイトルで以て始められていた。
昨年同様年末年始に掛けて地元に帰省していた帝人との連絡手段は主に携帯のメールや、時折チャットであったのだが、短い様で長い冬休みが明けようとする頃、帝人は池袋に帰ってくるのだと言う。
幽も当然喜んだが、それ以上に浮かれたのは静雄である。
連絡を取れる手段がある事自体幸せではあるが、どうしても、1週間以上会わない事が出会ってからこれまで無かった分、顔が見たくて仕方無かった。
自身の心境を正しく理解している静雄は室内で悶絶したりと忙しそうだ。
兄貴が楽しいならそれで良いか、と幽は兄の奇行に目を瞑っていた。

『それで、兄貴、初詣、行くの?』

漸く静雄の気持ちが落着いたであろう頃、幽は兄に問うてみた。
瞬時言葉に詰まり、静雄は小さく深呼吸する。

静雄にとって、人の多い所に行く事は、一種の恐怖であった。
元よりあまり人ごみが好きなタイプでは無かったが、耳が聞こえなくなってからは更に、人の居る所を自然と避ける様になった。
精神を苛まれる事柄に自ら足を突っ込むのも気が引けたし、何より、火種になってまた傷付くのが怖かったからだ。
が、静雄はまた、こうも思っていたのだ。
新羅が自分を変わったと言った様に、これからは、自分の意思で、自分が受け入れられる形を作って行きたい、と。
恐怖を乗り越える事は、その為の第1歩なのかもしれない。
そう考えて、幽に訊かれる前から、静雄の心は決まっていた。

「あぁ、行くよ。帝人にはもう、連絡した。」

決意を言葉に代えて。逃げ道を作らない為に。
作品名:心の重みを天秤にかける 作家名:Kake-rA