二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

それが「恋」だと、

INDEX|12ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 



帝人君の様子がおかしい。


朝方あんな会話をしてしまったせいだろうか、どうも避けられている。ぼうっと首の入った容器を見つめてみたり、ため息を付いたりと上の空だ。どうして急にあの首のことを気にしだしたのだろうと、臨也は唇をかみ締める。
首がいただけで満足していたころは、何も言われなくても側にいれば言いと思っていた。それがどうだ、実際に帝人を側においてみたら、次々に欲求が大きくなっていく。
好かれたいとか頼って欲しいとか、もうあんなことをしてしまった時点で絶望的なのかもしれないけど。でも帝人はあれ以降も、キスは拒まない。抱きしめるのも文句は言わない。触れるたびに体をこわばらせても、それでも拒絶はしなかった。
だったら全部許されたいと願うのも、やっぱり当たり前のような気がして。
「・・・首か」
臨也は息を吐いて、大切な首のことを思った。
確かに自分と同じ顔をしている首が存在するなんてわかったら、誰でもそれがなんなのか知りたいだろう。当たり前のことだ。よく今まで問われなかったなと、そう思うべきなのかも知れない。
けれどもそれならば、どうして今まで問われなかったのだろう。
いつから、彼は首を気にしているのか。考えるともしかしたら、あの日からだろうか。
・・・あの日。
衝動と嫉妬のままに、帝人を抱いたあの日。だってあんなの許容できない。自力で彼が逃げ出すというのならばここまで激昂はしなかったかも知れないけれど、彼はよりによって幼なじみの男に頼ろうとした。なによりそれが許せない。
紀田正臣。いつだってその存在は臨也にとって、嫉妬の対象だった。自分には向けられない帝人からの信頼を一身に背負っていた男。そして臨也について気をつけろと警戒を促した男。邪魔ばかりしてくれる。
臨也は自室のドアを開けて、帝人から取り上げたバッグから携帯電話を取り出す。一応こまめにチェックしているそれには、正臣からのメールや着信がいくつか入っていたので、履歴は削除してメールには一通り目を通した。必要なものには必要と思われる返事を勝手に返すのにも慣れてきた頃だ。
「・・・ほんと、邪魔」
帝人を軟禁してすでに今日で10日ほどにもなるだろうか。あのことが会った日、やっぱり正臣はメールを寄越して、遠慮がちに今日電話したかと尋ねてきた。NOと答えたあとももう一度、お前だと思ったんだけどなあというメールが届いて、イラついたのでそれは無視してやった。
どうしてお前が出張るのだ、と臨也は声を大にして問いたい。どうして帝人と自分の間にはいつもお前がいるのかと。
例えばあの時帝人が助けを求めたのがあの首なしならば、あれほど我を忘れて衝動のままに帝人を押し倒しはしなかっただろう。例えば園原杏里だったならばまだましだった。でもあいつは、紀田正臣だけは、許容できない、我慢ならない。
心の狭いことだ、と息をついて、臨也は帝人の携帯を元通りにしまい、部屋をでた。そろそろ夕食の準備でも始めようかと思いながらも、帝人のいる寝室のドアをぼうっと見つめる。
あの扉の向こうにいる帝人が何を考えているのか、臨也に何を求めているのか、それを切実に知りたかった。望んでくれるなら、そのとおりにしてあげるのに。
しかしそれなら、例えばあの首を捨てろと言われたらどうするだろう?
臨也はふと思いついたその仮説に酷く狼狽して、息を飲む。
首。
あの首は大切な大切な、臨也の「恋」。
でもそれを帝人が捨てろというなら、捨てられるのだろうか。自分は、どちらを選ぶのだろうか。
考えようとしても酷く現実味のない話で、とても答えが出せそうになかった。


「首・・・運び屋に見せてみる、かな」


ふと、思う。
あの妖精ならば、あの帝人の首についてなにか分かるのではないかと。何しろ本人も首なしなのだから。
首の本性がわかったところで、帝人と首のどちらをとるかという疑問に対して明確な答えが返せるかどうか分からないけれど、今よりほんの少しでも事態が改善するならばそうしたほうがいい。
そうだ、そうしよう。明日にでも早速。





そして、翌日。
『お前、これどうしたんだ?』
首を見せたセルティは、酷く慌てたようにそんな文字をPDAに打ち込んだ。見せたいものがあると言って尋ねてきた臨也を最初こそ警戒していたものの、それを見せられてしまっては警戒も吹き飛ぶ。
「首だよ、見ての通り」
答えた臨也に、セルティはもう一度文字を打ち込んでずいっとPDAを臨也の眼前に押し出した。
『なんで帝人の顔をしているんだ!?』
「・・・だから、それがわからないかと思って聞きに来たんじゃないか」
ガラスの器に入れて、水で満たされたその中に漂う首に、セルティはしばらく動きを静止してじっと見入るような姿勢をした。顔がないから見つめているとはっきりは言えないが、きっと見つめているのだろう。その詳細までも、すべて帝人と同じパーツだということを確かめているのだろう。
臨也がそうしたように、そして帝人だと認めざるを得ないに決まっている。案の定しばらくの後もう一度突き出されたPDAには、
『どう見ても帝人にしか見えない』
という、当たり前の文字が並んでいた。
「・・・それがなんなのか、わからないのか?帝人君は運び屋みたいにデュラハンってわけじゃない。あの子は普通の人間だ、そんなことはわかってるんだ。でも、その首のことは他にどうやって説明をつければいいのか」
『・・・この首、帝人に見せたのか?』
「見せたよ。悲鳴を上げて放り出された」
『そうか、触らなかったか?』
「首に?そうだな・・・直には触ってはいないと思うけど」
そんなことが重要なのかと首をかしげた臨也に、セルティは、仮定の話だがと前置きをしてから、悩みながらPDAに文字を打ち込んだ。
『霊体のようなものだと思う。精神で作られたものだ。幽霊とかではないぞ、決して』
怖いものが嫌いな彼女のことだから、霊体という単語から自分で幽霊を想像してしまったのだろう。そんな様子は微笑ましいが、その先を早く知りたい。
「精神?つまり、帝人君が作ろうと思って作ったってこと?」
『おそらくは。これほど似るということは、本人以外が創造したとは考えにくいんだ』
「どうやって?だってそれは・・・」
臨也が7歳の頃から存在している、という事実をうっかり口にしかけて、臨也は慌てて口をつぐんだ。それを教えたら、なぜ今まで隠していたのかと詰め寄られかねない。ごまかすように、
「本人は知らないみたいだったけど」
といえば、セルティはもう一度思案するように沈黙した。
それから、ゆっくりとPDAを操作する。
『確率的には8割程度だと思うが、もしかしてこれは、切り離された帝人の精神の一部と考えるのが妥当じゃないだろうか』
「そうすると、やっぱり帝人君本人ってことだよね」
『ああ、ただ』
酷く言い難そうに手を止めて、セルティは臨也に残酷な言葉を突きつけた。



『存在していていいものではない。だから、帝人が触ったら消えると思う』



作品名:それが「恋」だと、 作家名:夏野