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それが「恋」だと、

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そしてその手が帝人の顎を掬い上る。触れた瞬間大げさなくらい体が震えたけれど、目が合った臨也はやっぱり傷ついたような顔をして、子供が縋るみたいに帝人を見据えていた。
「・・・甘やかしてあげるよ、何時までもここでこうしていたいって思うくらいにさ」
唇が降りてくる。
計算しつくされたみたいに形の整った、どこか色香を含むその唇が、夏だというのに少し荒れている帝人の、どこにでもあるような唇を食む。
「っ」
さっきの、強烈なキスを思い出して身をすくませる帝人をなだめるように、ゆっくりと背中をさする臨也の手のひらの感触。どこまでも、優しい。
緩くその腕に捕らわれて、口付けはさっきとは違い、優しくなでるようなものだった。繰り返し繰り返し触れるそれに、次第に体の力が抜ける。
そうしてふやけかけた帝人の、思考回路にねじ込むように、臨也は耳元で囁くのだった。


「でも逃げようとしたら、無駄だってことを体のほうに覚えさせるから」


間近であわせた臨也の、その、瞳は。
何故だか今にも泣き出しそうで、縋る子供のようなひたむきさと、困惑と恐怖を混ぜ合わせたような、色をしていた。



++++



ああ、また夢に堕ちる。
真っ暗な夢だ、まだ帝人は闇の中をさまよっていた。
泣き声はずっとずっと泣き続けていて、もういい加減辛かろうと、必死になってその声の主を探すのだけれども、あまりにも暗いせいで姿を捉えることができない。
帝人は息をつき、ああ、そうだ僕には口があったとそこで気づく。


どこにいるの?


果たしてこの夢の中では、話すことができるのだろうかと疑問に思いながらも、おそるおそる闇に問いかけた。


ねえ、なかないでよ。


帝人の声が聞こえたのか、泣き声が一瞬止んで、がさがさと物音が聞こえてくる。立ち上がった音だろうか、とその音の発生源を探してきょろきょろしたら、暗闇にうっすらと白いものが浮かび上がった。


・・・だれ?


幼子の声が、微かな緊張を孕んで響く。
帝人は三歩そちらに近づいてみて、闇に浮かぶ白いものが小学生くらいの少年の顔であることに気づいた。真っ黒の服を着ていて、髪も黒いから、皮膚の白さが際立って見えるのだろう。
その少年の、泣きはらした赤い目が目に入って、ああ、この子だと帝人は安堵の息をついた。ようやく、みつけた。


おいで。


できるだけ優しく笑いかけたなら、子供は一瞬息を呑んで、躊躇うように帝人を見詰めた。そしてすぐにぶわりと再びその目に涙を溜める。
飛びつくように抱きつかれた。帝人はしっかりとその子供を抱きとめて、ただただ、泣き続ける子供の頭をゆっくりと撫でるのだった。



暗い暗い、夜の夢。
夜明けはまだ遠い。


作品名:それが「恋」だと、 作家名:夏野