最高のFINALE
5
(どうして、どうしてどこにも居ないのよ!)
カプセル・コーポ内を走り続けて、結局彼の姿は見つからなかった。
ブルマはふらふらとリビングに戻って来る。
床に力無く座り込み、ブルマは空を見つめた。
何が何だか分からない。頭の中は真っ白だった。
だって、先刻まで、ついさっきまで、べジータはここに居たじゃない。
いつもの様に、ここに居たじゃないの。
(どうしよう、パパが居なくなっちゃう)
「私にだって、どうしたらいいかなんて、分かんないわよ…」
ブルマはブラの言葉を反芻しながら、ふと、気づいた。
あの子なら。とブルマは気づいた。
べジータの居場所が分かる。ブラと同じく、彼の気が捕らえられる。
ブルマは即座に電話の受話器を取り上げた。
胸ポケットにしまってあるトランクスの携帯電話が振動する。
その振動に、トランクスは動揺した。
ある一定のリズムの振動。自宅からの連絡だった。
「ちょっと、失礼します」
そう言うとトランクスは会議室を出、手近な窓から外に飛び出すと、誰も来ないであろうその建物の屋上に移動する。
通話ボタンを押すのが少し躊躇われた。けれどその振動は止まらない。
母さんが必死に自分を呼んでいる。
トランクスは意を決して、通話ボタンに触れた。
「…母さん?」
トランクスは出来るだけ、いつもの様に振舞った。
「どうしたんです?もしもし?」
少しの沈黙の後、ブルマが口を開いた。
「…探して」
余りにもか弱い母の声。今までで一度も聞いた事のない声だった。
「べジータが…!居ないの…。呼んでも、何処探しても…!」
「……」
トランクスはただ黙って母の言葉を聞いていた。
そして、暫しの沈黙の後、トランクスは言った。
「…すみません」
「…え」
ブルマは息子の意外な台詞に、次に続く言葉を失う。
「…すみません。母さん。俺は、父さんを探す事は出来ません…」
受話器を持つ手が震える。ブルマの手も。トランクスの手も。
「約束、したんです。…昨日、父さんと」
トランクスのその言葉で、ブルマは全てを理解した。
「俺、気で分かったんです。父さんが…」
あの不安は、やはり当たっていたのだ。
「でも、父さんは昨日の夜、もう殆ど残っていない気を使って、俺を止めに来たんです」
今日の朝までの言葉と姿は、全て彼の、精一杯の虚勢。
「父さんは、母さんやブラには気付かれたくなかったんです。弱り続けていく自分の姿を」
どうして、こんな時にまで彼は意地を張るのだろう。
「…最後まで、笑っていて欲しいから、って」
ブルマは受話器を握り締めたまま、大声で泣いた。