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あさめしのり
あさめしのり
novelistID. 4367
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ハッピーエンドはいつのこと?

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 ああ、いったいいつ彼は気がついてしまったのだろう。アメリカがどうしてイギリスから独立したのか、どうしてふたりがうまくいかなかったのか。いっそ気づかないままでいてくれればよかった。俺を捨てたアメリカが悪い。育ててやった恩を仇で返しやがって。そんなふうにひねくれてそっぽを向いていてくれればよかったのに。このままずっとつかず離れず、国家間での友好的な関係を築ければよかったのに。ゆるやかで穏やかな関係のままでよかったのに。
 アメリカは気がついてしまった。一向に進展しない彼との関係に辟易しつつも、一定の距離感でつき合える現状に安堵していた自分に。
 どうしてうまくいかないんだろう。そんなふうに不満を抱いて、ありもしない未来を想像して、時に彼や彼の傍にいる人間にいらだったりして。思えばそれらは全部、アメリカが彼と歩む未来を望まなかったからだ。アメリカにできないことなどない。アメリカが望みさえすれば、そして努力しさえすればできないことなどあるはずがない。それがこじれにこじれたイギリスと復縁することであったとしても、だ。アメリカがそうしたいと望み、イギリスに真摯に自分の想いを訴えていたなら、いかに石頭でにぶちんの彼だって耳を傾けてくれただろう。アメリカが強く望みさえすれば、イギリスと恋人になることだってできたに違いない。なのにそうしなかったのは、アメリカ自身がそうしようと思わなかったからにほかならない。不満をかこちながら、現状を改善しようとしなかった弱い自分がいたせいだ。
 アメリカは自分のなかに確かに存在する、まるでヒーローらしくない自分をみつけてしまったのだった。
「泣かないでくれよ、イギリス」
 あまりに泣くものだからアメリカの肩は彼の涙と鼻水でぐっしょり濡れてしまっていたが、意地っ張りでにぶちんのこの人にここまで言わせるなんてヒーロー失格であることは間違いなかったし、ここはせめてヒーローらしく彼に肩を貸してあげようと思った。





 イギリスはアメリカに愛していると言い、アメリカはいいよともいやだとも言わなかったが、それがもうアメリカの答えだった。
 アメリカは彼を突き飛ばさなかった。抱きしめる腕をほどくこともなくキスを受け入れた。家族の間で交わされるそれではない口づけを、アメリカは黙って受けた。
「・・・・ふぁ、ん」
 鼻から息が抜けるのと同時に間抜けな声が漏れる。砂糖菓子みたいに甘ったるい、彼に甘えている女みたいな声だと思った。
 唇を重ね、舌を擦りあわせる。彼の薄い唇と薄い舌が、いったいどんな風に動いているのか、アメリカには想像もつかない。構造自体は自分のものと同じであるはずなのに、彼の口はまるで自分のものと違っているような気さえした。
「・・・はっ、ん・・・・・」
 目を閉じると、唾液の絡む音がやけにおおきく感じられる。頭がぼんやりとしてくる。もしかして酸素が足りていないのだろうか。彼があまりにがっつくから、呼吸する暇を与えられていないせいだろうか。否、アメリカは自分の考えを即座に打ち消した。彼がどうであろうと、アメリカはキスするのが初めての少年ではない。鼻で息をすることだって知っているし、鼻息が荒くなっちゃったらいやだなんて考えて思わず息を止めてしまうような女の子でもない。
 一度離れたと思ったのに、彼はおおきく口を開いてまたぞろアメリカの唇を食んだ。そのまま食べられてしまうような気がして、ぎゅっと目をつむる。すると今度は固く閉じた瞼の上に、彼の唇が降ってきた。怖くない、大丈夫。肩をつかんだ掌が間違いなく情欲を伝えてくるくせに、その口づけはやたらとやさしくて、アメリカの緊張をほぐそうとしているのがわかった。
 そんなことをしなくても、俺は初体験に身を固くする女の子じゃないのに。
 そう言おうとして、やはりやめた。アメリカの初めてはイギリスだったからだ。アメリカが彼のものだった頃、まだ成長途上の幼い体を彼は抱いたのだった。現代アメリカで、当時のアメリカと同年齢の子どもに手を出したら間違いなく手が後ろに回ってしまう。もっともアメリカは国だから、容姿が子どもでも人間と同じ年齢であるとは限らないし、一概に彼に性犯罪者のレッテルを貼るのは間違いだろうが。それでも見た目から言えば立派な犯罪なわけで、アメリカは彼に気を遣うのもばかばかしいという結論に至った。
 アメリカの腹の内などいざ知らず、イギリスは生娘を相手にするかのようにアメリカをベッドに横たえた。
「あ、あ、あ、アメリカっ」
 あまりにも必死な顔がおかしくて、アメリカは口角があがるのを我慢できず笑ってしまった。
「イギリス、君・・・」
「わ、笑うなよ! おれはまじめなんだからなっ!」
 おおきな翠色の目が湖みたいに水でいっぱいになった。彼を泣かせたいわけではなかったので、あと少しで洪水になる一歩手前で、アメリカは「俺だって君にまじめなんだぞ」とささやいて、背中に腕を回した。
 それから彼がしたことを端的に説明するならば、「アメリカをひん剥いて突っ込んだ」。端的に言ってしまえばこうだ。イギリスはアメリカを抱いた。だが、彼は女を扱うようでもなければ子どもをあやすようにでもなく、男としてのアメリカを抱いた。イギリスはアメリカとつきあうために最大限の努力を払うつもりでいるらしい。
 ベッドを出ても、イギリスはやさしかった。ヒーローらしくありたいくせに、彼に関することにおいて自分の理想とするヒーロー像からかけ離れてしまっているアメリカと比べて、よほどヒーローらしかった。彼はアメリカを一人前に扱うというには語弊があったが、それでもなるべくアメリカの意志を尊重してくれた。頭ごなしに叱ったり非難したり、そういう今まで喧嘩の原因になっていたものをなるべく排除したがっているようだった。どんなにばかげたことを言っても、アメリカが言うことを一度はちゃんと聞いてくれる。前ならとにかくおまえはばかだのなんだのそういうふうに言っていたのに、今はぐっと飲み込んで一度は聞いてやらないととばかりに傾聴してくれる。それがわかるから、彼が反対するときは本当にだめなんだとアメリカも思うし、だったらどうしてだめなんだいと聞き返すこともできる。アメリカがからかったり皮肉ったりしなければ、彼は冷静にアメリカがしたいようにするためにはどうすればいいかを考えてアドバイスしようと努力してくれる。もっとも、戦闘機にアイス製造器をつけようと言ったときには容赦なく丸めたレジュメで頭をぽかりとやられたものだが。
 ただ、ピロートークはいただけなかった。
 チョコレートやアイス、ドーナツなら甘ければ甘いほうがいいが、睦言のたぐいはほどほどでいい。イギリスは事をおっぱじめる前、それから事後にアメリカの耳元に甘すぎるほどの言葉をささやき、アメリカをうんざりさせた。