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かわいいひと

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すみません、と女は謝って後ろを向くから思わず俺も見れば、抱きついているのはなんとフェリちゃんだった! ってさっき菊って呼んだか?
そういやロヴィーノがフェリちゃんは菊に会いに行った、って言ってたな。じゃあこの女のことか。

「あれ? ギルなにしてんの?」
「え。あぁ、喫茶店に来てくれって言われて」
「お客様つれてきました!」

私もちゃんと客引き出来るんですよ、なんて胸張って言うからフェリちゃんがあぁもう菊可愛い! って抱き締めてる。
俺からしたらどっちも可愛く見えるんだけど。

「あ、でも席埋まってるんですね、どうしましょう」
「あ、俺相席でいいよ~」
「そうですか、ありがとうございます」

そう言ってどうぞ。と促されるから俺はおぉ、と言われた通りに進む。
というか、ここまで笑顔のフェリちゃん見たことないかもしれない。
もしかして、と思ってフェリちゃんを見ようとしたときいきなり肩を掴まれた。

「ギル」
「な、なんだ?」

あまり見ることねぇ真剣な顔でフェリちゃんが俺を見てくる、いや、これは睨んでる!

「俺、菊のこと好きだからちょっかい掛けないでね」
「は!?」
「菊! メニューギルに渡してあげて!」
「はい!」

そう言って渡されたメニューを受け取るけど、かなり動揺していた。
フェリちゃんの好きな子、と分かってる。
けど、なんか頭から離れない。
これってやっぱ




「恋、だねぇ」
「ま、じか」

あれからあんまりなにも覚えてない。
気がついたらフランシスが俺を見てニヨニヨ笑ってやがった。
恋に浮かされたような顔してるね、なんてからかって。
でも、俺が何も反応しなかったら、おいおいどうしたんだよ。なんて慌てて来て、そしたら休憩に入ったアントーニョも合流して俺の話を聞き始める。つか強引な聞き出される。
最後まで話して言われたのがそれだった。

「まさかギルがなぁ。まぁ、ありえそうやね。そんな見た目やのに遊んだことないもん」
「そんな見た目ってなんだよ!」
「めっちゃ遊んでそうやん、そんな感じなんようまとわりつかれとったやろー」
「いや、それより菊って言ったんだよな。おかしいな、俺のメモにそんな女の子いない気が」
「お前の観察眼が耄碌してんちゃうん」
「ちょ、なんでいきなりそんな言葉投げられちゃうわけ! うぅん、菊ねぇ。…………あ」
「あ?」
「ギル、もしかしてその子って黒髪のとても似合う……あー、日本で言う大和撫子な感じ?」
「あ、それだ」
「分かった! 菊ちゃんね、本田菊ちゃん! あの子かぁ。あの子ならわかるなぁ。可愛いもんねぇ」

俺も手出したかったんだよねぇ、なんて馬鹿なことを言うフランシスを一発蹴っておく。
そしたらアントーニョがのほほんとした声で告白せんの。とか言い出した。
こ、告白だ!?

「は、早いだろ!」
「早ないよ。いってまえや!」
「ちょ、待て。こ、こころの準備が出来てねぇよ」
「何言うとん! 可愛いんやろ? はよいかな取られてまうで! フェリの言うとること考えてみ? その菊ちゃんフリーやって!」
「あぁ、俺の情報でも菊ちゃんが誰かと付き合ってるなんてのはないな」
「ほら、はよ行き! フェリに遠慮しとんの? そんなんで恋を諦めるとかアホのすることや!」

なんかかなり勢いでアントーニョが言ってくるからなんかもう俺も勢いで行ってやる! って気になってしまった。
そうなると話は早い。
お前等行くぞ、なんて言って立ち上がってまたあの喫茶店に向かう。

「なぁ、アントーニョ。お前菊ちゃんの正体知ってるな?」
「え、知っとるに決まっとるやん」

なんて声は全く聞こえなかった。



目的地に近づく度に跳ねる鼓動を抑えながら喫茶店に向かう。
後ろから二人がついてきてるのもわかる。
もう、やってしまえ!
そう思って行ったわけだけど。






「お、男?」
「はい、そうですが」

ギギギ、と錆び付いたブリキ人形みたいに振り返れば、笑ってるフランシスとアントーニョ。
……てめぇら、知ってたな!!

「後で面貸せ」
「やだ、ギルちゃんたらこわーい!」
「こわーい! じゃねぇ! アントーニョ! 知ってたからそんなにノリノリだったのかよ?」
「あはは、ごめんなぁ」
「棒読みで謝るな!」

最悪だ! 俺はこんな公衆の面前で男に告白してしまったってことだろ!
あぁ、俺は明日からどうなるんだ、そんなこと思いながら溜息を吐いたとき、

「あ、あの」
「あ?」

服を引っ張られた。
振り返れば、女……じゃなくて本当は男な本田が困ったような顔で俺を見ていた。

「私、今から休憩なんですが、ご一緒していただけませんか?」

うっかり、なんで俺が。と言いそうになって口をつぐむ。
確かにこんな紛らわしい格好して間違えたけど、コイツに怒鳴るのは筋違いだ。
けど、俺はコイツを女だと思って告白したわけで……

「えぇよ、ギル暇やから!」
「ギルいつも一人寂しすぎるからむしろ相手してやって!」
「お前ら!」

何勝手に言ってんだよ!
慌てて二人を見れば、肩掴まれて内緒話になる。

「お前、菊悲しませるんか」
「こんな可愛い菊ちゃん悲しませるとか万死に値するよ」
「いや、でも男」
「そんなん関係ないやろ」
「関係ないね。お前は菊ちゃんに告白した。菊ちゃんはそれを受けた。どう考えてもお前等は付き合いたてほやほやのカップルだ」

悔しいけど応援してあげるよ。とか菊泣かしたら許さんで、とか口々に言われて頭が混乱する。だから、俺は!

「お待たせしました」

いきなり低い声が後ろから聞こえてびっくりして振り向けば、そこには見たことない男が立っていた。

「お前、まさか」
「はい、本田ですが」

あの長い髪はウイッグだったみたいで、本当は髪は短い。
前髪は眉毛の上で切りそろえられていて、耳元でも切りそろえられている。
地毛でも綺麗な、むしろ綺麗だと思っていたウイッグ以上に艶やかで綺麗だった。
それ以外は化粧してないくらいでよく見たら全く同じ。
いやでも、素の声は思っていた以上に落ち着いた低い声だった。
本当に男、だったのか。

「ほらいってき」

背中を押され、本田の真ん前に立つ。
振り向けば二人は手を振ってどっか行きやがる。
覚えとけ、なんて思いながら本田を見たら本田は少し困ったように笑って、じゃあ回りませんか。なんて言ってきた。
あぁ、なんでだ。
どうして男と分かった今でもドキってしてしまう?
わけわかんねぇ!!














俺は文化祭の日、一人の女に一目惚れしてしまった。
なんで今まで見たことなかったんだ、ってくらいに可愛いソイツは俺のドストライク。
そんな俺の態度がバレバレだったらしく、あいつ等に詰め寄られ、告白しろ、と言われ勢いでやってしまった。
それがどうだ。
俺が惚れた女は女装した男だった。
さすがに予想外すぎる展開に俺は反応出来なくて今に至る。
付き合っているのかがさっぱり分からない、

「あ、ギルさん、フランシスさん、アントーニョさん。お昼ですか? ならご一緒していいですか?」
「いいよー! むさ苦しくてお兄さん嫌だったの! あー菊ちゃんみたいな可愛いなら全然オッケー!」
作品名:かわいいひと 作家名:秋海