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包帯と致命傷

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「その人、リンクといつも一緒に居る人ですよね? どうしたんですかその傷。それに、マルスだって面識が無かったじゃないですか」
「剣の手入れで切った」
 救急セットを持ってきてくれたロイの問いに対し、淡々と答えるダーク。ダークの答えだけでは足りないと思うので、僕が補足をする。
「ああ、一人で血を流しながら裏庭で傷によく効く薬草を探していたそうだ。止血もせずにね。中庭のタイルに血が沢山垂れていて、それを追っていたら見つけたんだよ」
「そんな、中庭から裏庭まで血を流しながらって……多分結構な量の血を流してますよね。僕の目には全く平気そうに見えるんですが」
「ああ、これだけ深い傷なのに全く痛そうに見えない。それでも……さっきは足元が若干覚束無かった。立ちくらみもあるのだろう? 傷の手当をしたら少し横になって休むといいよ」
 ダークがこくりと頷く。やはり立ちくらみが少しあるのだろう。先ほどに比べると若干目の焦点も定まっていない。それもそうだ。全く痛みを感じていないようには見えるのだが、魔物ではあるものの基本的な体の構造は人間とほぼ変わらないと聞くだけあって、沢山血を流せば流石に立ちくらみがするだろう。痛みは隠せるかもしれないが、立ちくらみを隠すのは難しい。
「ドクターマリオは居ないんでしょうか?」
「今は確かリンクと一緒に戦ってるよ。……ダークも今度怪我をしたら、ドクターマリオの所に行くんだよ?」
 救急セットの箱を開けて、中から消毒液と小さく千切った脱脂綿、ピンセットを取り出す。消毒液を脱脂綿に染みこませ、痛むだろうけれど我慢してね、と前置きをした後、傷口に軽く脱脂綿を押し当てる。少しくらいは痛みに顔を歪ませると思ったが、相変わらずの無表情で流石にちょっと驚いてしまう。
「痛い……ですよね? 普通これくらいの傷は」
 全く痛そうな顔をしないダークにロイも驚いているのか、横から割り込んできて、相変わらずの無表情で、僕の手の動きをじっと見ているダークの横顔を見る。
「まぁ人間ならそうだろうね。魔物は人間よりも痛覚が鈍いのかもしれない」
「もっと酷い傷を、負ったことがあるだけだ」
「それでもこの傷は痛いと思うんですけれどねぇ……。やっぱり、体の構造は人間に近いと言っても、根本的に何か違うところがあるんでしょうか」
「人間はそんなに脆いのか? よくそれで戦えるんだな」
「なっ……」
 ダークの物言いがちょっと癪に障ったのかロイが悔しそうな顔で睨む。まぁ、知らないことだらけだというので、何を言ってしまえば人は怒ってしまうのかも、この調子ではよくわからないのだろう。僕としては今はただ周りに馴染んで、早くそういうことを知ってくれるのを心から願うばかりだ。
 くるくると手際よく包帯を巻く。ひょっとすると誰かに傷の手当で包帯を巻いてもらうことも恐らく初めてなのだろうか。
 リンクは簡単な傷なんて唾か薬葉でもつけていれば治るとでも思っていそうだし、そもそも包帯の巻き方を知らなさそうだ。さらに元々ダークが魔物だということを考えると、魔物は怪我を負っても手当てをされること自体なさそうではある。
「はい、これでおしまい。もう大丈夫だよ」
「……包帯が邪魔だ。どうにかならないのか」
「それは無理だ。怪我をしているんだからね。君の利き手はどっち? 確かリンクが左利きだったから、君も左利きなのかい?」
 何も言わない代わりにダークがこく、と頷く。ならよかった、スプーンとフォークは持てるから別にいいじゃないか。と包帯の上からダークの右手をそっと撫でながらそう言う。
 幸い切り傷なので傷が塞がるのは早いだろう。しかし深い傷なので些細なことでまた傷が開いてしまうかもしれない。
「次に怪我をしたり、傷口が開いてしまったら、ドクターマリオの所に行くんだよ。居なかったら僕の部屋においで。僕が手当てをしてあげるよ。僕がいないならロイがやってくれる。ロイも、別に構わないだろう?」
「それは別に構いませんけれど……そういえば、もっと酷い傷を負った、と言っていたじゃないですか。ダーク、それってどんな傷なんだ?」
 ロイの問いかけに、ダークは右手に巻かれた包帯を眺めながら、
「一度、死んだ時の傷だ」
 思いもよらない言葉に、ロイと一緒に二人で唖然としてしまった。ダークはそんなことも全く気にせずに、
「あいつの持っている剣があるだろう。あいつにあの剣でここを刺されて、おれは殺された。傷は今もある」
 そう言ってダークは、鳩尾の少し左辺りに手を置く。その黒い服の下には、大きな刺し傷があるのだろう。目を伏せ、ダークはさらに続けて、
「今でも覚えている。肺は焼けるように熱いのに、体はとても寒くて、全身を巡る血が妙に暖かく感じられた。刺されたところから止め処なく流れ出た血が肌に触れて、それがすごく暖かかったのもよく覚えている。酷く寒くて、酷く眠い。体の末端から順番に感覚が無くなり、徐々に自由が利かなくなった。瞼も重く、下がっていって、それから……」
 そこまで言いかけたところで、ロイが僕とダークの間に割り込み、その手でダークの口を塞いだ。これ以上、命あるものが息絶えるその瞬間を聞いていたくないのだろう。それは、僕も同じだ。それを聞くと、思い出したくも無い戦場を思い出してしまう。ロイもそうなのだろう。
 ロイは、碧眼を恐怖と怒りでいっぱいにして、ダークを睨んでいる。
 ダークは、どうして言っていることが途中で遮られるのかわからない、どうしてロイにそんな目で睨まれなくてはならないのかわからない。といった顔でロイを見つめている。
「それ以上」
「……ロイ」
「それ以上、何も言うな。そのようなこと聞きたくもない」
 そう吐き捨て、ロイはダークの口を塞いでいた手を離し、大きくため息を吐いて空いていた椅子に座った。その額には、一滴の汗が流れている。
 流石のダークも、ロイの目を見てこれ以上言ってはいけないと悟ったのか。すまない。と一言だけ謝って、俯いてしまった。間に微妙な空気が流れている。このままではいけないと、僕は立ち上がり、ダークの左手を取って、
「ダーク、僕のベッドを貸すから、少し横になるといい。君が寝ている間にリンクには怪我の手当てをして僕の部屋で寝ていると伝えておくから」
「わかった」
 そういって立ち上がり、僕のベッドに向かうダークの足は、やはり少しふらついていた。ベッドの上に横になったダークに毛布をかけてやる。真昼なので眠れはしないものの、とりあえず目を閉じて体を休ませているようだ。
 これでダークの方は一安心だと僕は小さく笑い、気難しそうな顔をして椅子に座っているロイの向かいにある椅子に腰掛ける。
「リンクに伝えに行かなくていいんですか」
「終わるまでまだまだ時間はあるだろう。ロイと話すくらいの時間はあるよ」
「そう、ですか」
 ああ。と相槌を打つと。ロイはそのまま黙り込んでしまった。その気持ちは、痛いほどよく分かる。
「……すみません」
「ん?」
「取り乱して、しまって」
「別にいいよ。あんなこと聞いて居たくなかったのは君だけじゃない」
「そうですね。……あれが、命あるものが息絶える瞬間」
 そう呟き、拳を強く握るロイ。
作品名:包帯と致命傷 作家名:高条時雨