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第六章 ライ麦畑でつかまえてより抜粋


 下着とジャージの間で、葉佩九龍の携帯のLEDが存在を主張していた。
 バスタオルを腰に巻いただけの状態で携帯を開く葉佩の姿に、どうしたと皆守が声をかける。ん? と、適当な応えを返してから、差出人と文面を確認した。
「やっちーだ」
 葉佩の半ば独り言みたいな言葉に、皆守は眉を寄せた。
「折り返し電話してほしいってさ」
 単純に、おやすみおはよう、もしかするとうまくいったとか、校舎に入れなかったというメールなら、特に疑問に思うこともなかっただろう。だが。
「確か緋勇とその……いったんだろう?」
 皆守の言葉に、葉佩は眉を寄せ頷いた。とりあえずと風呂から上がったばかりの身体を拭い、ジャージを身につける。適当に水気をとっただけの頭にバスタオルを乗せ、葉佩は電話帳から選んだ八千穂の番号へと電話をかけた。
 皆守はすでに身支度を終えていた。だが、風呂道具を抱え、不安げに葉佩の様子を見守っている。呼び出し音を聞きながら、葉佩はそちらへと軽く笑いかけた。
 次の瞬間。葉佩の表情が変化した。理由を察したか、皆守が苦笑する。
「何の用だ」
 回線の向こうでは、緋勇龍麻が早かったねありがとうとへらへら笑っているらしい。目の前に心底嫌いな食べ物でも持ってこられたかのような表情で、葉佩は携帯電話の筐体を握りしめた。
「お知らせって言うかお願いって言うか」
「……」
 ただ無言で、葉佩は緋勇の言葉を聞く。回線の向こうにいる男は、葉佩がとても不機嫌であることは察しているだろう。だが、特に頓着する様子はなく言葉を続けた。
「新しい区画が開いたデスヨ」
 予想通りといえば予想通りだった。こくり、と、葉佩ののどが動く。
「ま、そう言うお知らせっス。後もう一つ。《生徒会執行委員》ですけどね。またかって言ってました。ちなみに獲物は銃」
 心当たりありますか? の言葉に、葉佩は低く肯定を返した。
「……やっちーが危険です。もしかすると、九ちゃんも明日から厄介なことになるかもしれません。なので、できれば今晩」
 いまから、と。緋勇の言葉に、葉佩は了解を返した。
「厄介なこととはなんだ」
 心当たりから考えて、なんとなく返答は読めていた。だが、あらためて葉佩は緋勇に尋ねた。
「《生徒会執行委員》にどうも気に入らない相手と顔を覚えられてるみたいなんですよねェ」
 夜会が原因じゃないかと、と。予想通りと言えば予想通りの言葉に、葉佩は眉を寄せた。
「獲物が獲物なんで、やっちーはとめました。銃声で銃の名前を識別できたりはしないんですが、マシンガンよりは射程が長く、リボルバーよりは弾数が多いかと思います」
「情報の提供と協力感謝する」
 今から支度をして向かうという葉佩の言葉に、安堵の声が返る。
「ありがとう、お疲れさまです」
 同行するのかという葉佩の問いに、緋勇はいやあと言葉を濁した。
「九ちゃんの足を引っ張ってもマズいデスからね」
 後はよろしくお願いします、と。そう言って電話が切れた。
 ゆっくりと、葉佩は耳から携帯を遠ざけた。そして、ためいきをつきつつフラップを閉じる。何だったんだという待ちかねた様子の皆守の問いに、葉佩は頷いた。
「悪い。ちょっと用ができた」
 葉佩の短い言葉に、皆守はほんの少し目を見開いた後、無言で頷いた。葉佩は少し笑って頷きかえす。皆守は眉を寄せた。そして。
「……九ちゃん」
 彼が言葉を重ねようとしたそのとき、うふふと怪しい笑い声が響いた。
「石のいいにおいがするねぇ〜」
 うふふうふふと怪しい笑い声をあげながら、黒塚至人がひたりと葉佩の肩に手をおいた。笑い声に気づいていなかったわけもないのだが、思わず葉佩はうわと声をあげる。そのさまに満足そうな笑い声をあげると、黒塚はぴったりと身体をくっつけるようにして葉佩ににじりよった。
「約束をおぼえているよねェ」
「はいぃ?」
 言葉の内容というよりは黒塚の態度に対して、葉佩は素っ頓狂な声をあげた。黒塚は眉を寄せ、ええと不満そうな声を出す。
「可愛い可愛い隕鉄ちゃんを貸してあげただろう?」
「か、返す、返す! 今、部屋からとってくるから」
「それはもちろんだよー。だけど、それだけじゃなくってさぁ」
 抱きつかんばかりの黒塚の様子に、葉佩は何のことだと問い返した。そこへ。
「ああん、ダーリンずるい、ずるいわっ! アタシもお風呂上がりのダーリンクンクンするううううううぅ!」
 どこからともなくあらわれた野太い声と薔薇の香りに、葉佩はあせって黒塚をふりほどこうとした。だが、一瞬遅い。しかし。
「これ以上事態を複雑にするな!」
「ぶぺらっ!」
 葉佩の首筋にはりつこうとしていたつや唇に、皆守の脚がヒットする。奇妙な声とともに床に落ちる朱堂を、丸めた新聞紙で叩いたゴキブリを見る表情で、彼は見下ろした。そしてさらに、朱堂が激突した場所、スウェットのふくらはぎのあたりを確認し、心底いやそうに吐き捨てる。
「くそ、汚れたか」
「何すんのよ皆守甲太郎! アンタ、あたしとダーリンの間を引き裂くつもりね!」
「ただでさえ面倒な事態になっているんだ。とりあえず三日間ほど黙ってろ」
 そう言って皆守は、容赦なく地にふした朱堂を踏む。ぐえとつぶれたカエルのような声をあげるのを無視し、おいと葉佩に呼びかけた。
「さっさと終わらせろ」
「……はい」
 あごをしゃくる皆守に、どこか呆然とした表情で葉佩は頷いた。そして、話は終わったのかいとすました表情で問う黒塚に頷いた。頷くも、どうもふにおちないという表情で首をひねる。
「約束っていうのはねェ」
 何か言いかけたのを皆守に阻止されたのだろう。朱堂がまたぐえと鳴いた。
「僕を、隕鉄ちゃんのおともだちがたーくさんいる場所に連れて行ってくれるって言ってたよねェ、って。そのことだよ」
 ほら、夜会で隕鉄ちゃんを貸してあげたときに、と。黒塚に言われる前に、葉佩はそのときのやりとりを思い出していた。
 正直なところ、黒塚とのやりとりについては、ばっくれてしまうつもりでいた。もっとも、そうできないのではないかという予感があったのも確かだった。
 とはいえ、今回に関しては、連れていくという選択肢はありえなかった。普段の《墓》であっても、本来ならば素人を連れていきたくはない。だが今回については特にまずい。なぜなら、今回待ち受けている《生徒会執行委員》の武器は、銃だというのだ。
 ええと、と。葉佩は口を開いた。葉佩の雰囲気が変化したからだろうか。黒塚はまっすぐに葉佩を見、彼の言葉を待った。
「今回は無理だ」
 きっぱりとした葉佩の言葉に、黒塚はほんの少し首を傾げた。葉佩は眉を寄せる。夜会の夜、彼は確か言っていた。連れて行ってくれなくとも、勝手についていく、と。葉佩は眉を寄せたまま、息をはいた。そして。
「確かに今からおれはその――君がいうところの、可愛い石がたくさんいるところに行く。だけど、今回は連れて行けない。危険すぎる。今度機会をつくるから、今回は遠慮してくれないだろうか。もちろん、勝手についてくるのもダメだ」
 黒塚はじっと葉佩を見ている。何も反応を示さないままの姿に、葉佩は再度口を開こうとした。その時、黒塚はわかったよと口にした。