二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

口説く。

INDEX|4ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 


PS.
 ギルが自宅へ戻ると、なんと玄関近くまでアルコールの匂いがあふれていた。
 彼の飼い犬は悲しそうに玄関ホールの隅で、身を寄せ合って鳴いている。鼻の敏感な彼らにとって、昨夜はさぞかしつらかっただろう。
 いったい何があったんだ? と怪しみながら居間に足を踏み入れたギルは、そのままのけぞる羽目になった。室内に林立する酒瓶の群れは、彼の家にある酒類がすべて集合する勢いで。おまけにこの匂い。
「なんだこりゃ。ここはアルコール標本製造所か?」
 その声に反応したのは、小柄な黒髪の人影だった。
「おかえりなさい。昨夜はちょっと……呑みすぎました」
 おそれいります、すいません。と謝る菊にうろんげな視線を飛ばし、ギルは弟の姿を探した。
 ルートは酒瓶を抱え、完全に熟睡していた。全身から作りたてのブランデーケーキのような香りを発散している。
「俺様の弟を酔いつぶすとは、どういう了見だ?」
「つぶしたわけじゃありません。彼が自主的に呑んだんです」
 およそ納得とは無縁の表情のギルに、菊はあっさりと告げた。
「私が彼に告白して、振られました。これはその結果」
「お前がルッツに告白?」
「はい」
「それで、お前が振られた?」
「はい」
 逆よりはあり得るな。と、ギルは再び弟に目を向ける。振った側がここまで酔いつぶれるという事情を、兄はほぼ察した。
「すまん。俺は兄として情けない」
 苦悩の表情を浮かべ、ギルは告げる。
「まさか奴が、据え膳から逃亡するような馬鹿だったとはな。俺の教育が間違っていたっ」
「……謝る所はそこなんですか?」
「いや、本当に馬鹿だと思っているぜ?」
 いくらお兄さんでも、いいすぎですよ。と菊がたしなめると、ギルは彼を指差して言った。
「馬鹿はお前。ルッツじゃなくて、俺にしておけばよかったんだ」
 そうかもしれませんね。と、菊はさらりと受け流す。いつものことながら、彼の身かわしスキルは大したものだと、ギルは苦笑するしかない。
「今のは内緒ですよ。お酒で流してしまった話ですから」
「へーへー」
 酒のせいか、いつもより表情や感情が表に出ている菊は、愛らしさと茶目っ毛が同居した小悪魔のようだ。
 内心、コレに迫られて耐えきった弟はすごいんじゃないか? と思ってみるギルだった。



* 艶然と。

  kirschwasser=キルシュワッサー。直訳すると「サクランボの水」という可愛い名前になります。
  しかし、上にも書きました通りすごく強いお酒です。普通は小さなシェリーグラスでいただくものです。
  香りが高く、製菓用にも使われます。甘みはほとんどありません。
 
作品名:口説く。 作家名:玄水