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　悠然と扇子を構え立っている。
「獣は獣の考えしか出来ぬ。与えられた骨にしゃぶりついたままで地面しか見えていない犬だ。天を見ることもせず目先の利しか見えていない。そんな貴様は竜の布地を纏った犬だ」
　独眼竜の名が泣く。
　そう呟いた三成は扇子を伊達政宗に向ける。


「俺も兼続も、人だ」


　まるで海の波を思わせる波状攻撃は、大阪城前に展開する西軍にとって過酷なものだったが、それでも各城門前に布陣していた諸将は奮戦をし、よく凌いでいた。
　その中でも最大の危機は、大筒の登場だった。
　これには奮戦続けていた西軍は動揺してしまい、前線が押し上げられてしまった。
　しかし、この空気を討ち払ったのが、真田幸村だった。
　少数の部隊で大筒部隊へと突撃し、見事大筒を奪い破壊したのである。
　これに西軍の士気は一気に上昇して、特に正面の部隊は奮起し、大筒登場によって危機的状況だった大手門前の敵を一掃したのだった。
　正面の部隊は敵の波が引いた状況の中、今は負傷兵の処置や情報の収集に駆け回っている。
「真田様！　伝令が参りました！」
「どうしたっ？」
　馬でやってきた伝令は、転げるように馬から下り幸村の前で膝をついた。
「申し上げます！　本丸西門前にて、石田三成様、伊達政宗を見事討ち取りました！　毛利軍により伊達軍は壊滅しつつございます」
　その報告を聞いた周りの兵士達から歓声が起こる。
「三成殿はどうされた？」
「部隊はそのまま南下し、城西門から真田丸へ進軍とのこと」
「わかった」
　いよいよ兼続との戦いである。
　三成はどうするのか。
　幸村は三成を信じる一方で、兼続の情の深さを危ぶんでいた。
　流れによっては、兼続が自刃してしまうのではないかと。
　伝令が下がった後も考え込んでいる幸村の隣に、長宗我部盛親が立った。
「真田殿、行きなされ」
「長宗我部殿」
　彼もまた部隊を率いて正門前で敵の猛攻を防いでいた将の一人だった。
　今は部隊の収拾にあたっている。
「直江殿とは、今は敵となったとはいえ友誼がござろう」
　その言葉に幸村は軽く驚いた。
　幸村は長宗我部とはあまり話したことはない。
　しかし、直江兼続と繋がりがあることを知っているのは、情報を仕入れたか、先の関ヶ原の戦いまでの経緯を聞いたからだろう。
「……かたじけない」