『テスト投稿』もしも~ 大坂夏の陣
兼続は一度だけ目を瞑り、再び開くと持っていた剣に力を込めた。
先に踏み出したのは三成だった。
振り下ろされた鉄扇が兼続の剣とぶつかる。
一度離れ、再び打ち合う。
二人の戦う姿を上杉軍も三成が率いてきた部隊も、固唾を飲んで見守っていた。
兼続は唇を噛み締める。
三成の動きに全くの迷いがない。
その証拠に付け入る隙がほとんどなかった。
逆にこちらが気を抜けば、確実に仕留められるだろう。
そんな中で、討ち合えば討ち合うほど兼続は迷いが拭き出してきていた。
そして、己に対する疑心も生まれていた。
今、自分が何をすべきなのか。
目の前の男を見て、何を思うか。
己が貫き通したかった理想の『義』がそこにあるのだ。
彼は自分の選び取った道も『義』であると言った。
しかし、兼続にはどうしてもその言葉を受け入れることができずにいる。
それは彼があまりにも見事な『義』を貫き、兼続の眼前で鮮やかに見せていたからだった。
「ぐぅっ」
迷いが表れた隙を衝かれた三成の攻撃に、兼続の剣が手を離れ地面に落ち、その衝撃で兼続は膝をついた。
「勝負あったな、兼続」
顔を上げれば、自分の喉元に突き付けられた扇子が光っていた。
「……あ、ああ」
「直江様!」
兵士達が駆け寄ろうとするのを、兼続は腕を伸ばして止めた。
「斬ってくれ、三成」
「何故、友のお前を斬らねばならんのだ」
兼続は驚き、三成を見つめるが、彼はあまり見せたことのない穏やかな微笑みを見せていた。
「とも……友と、呼んでくれるのか? お前は先程『最後だ』と言ったではないか。だから、私は……」
その言葉に三成は笑みの種類を変えた。
「そうだ。あの時俺は、お前を敵として話すのは最後だろう、と言っただけだ」
彼はただ『話すのは最後』と言っただけ。
それが、不器用な三成なりの信頼の証だと、今になって気がつく。
自分は敵としての直江兼続を討ち果たし、今ここにいるのは友の直江兼続だ、と三成は恥ずかしそうに他所を向いて小さな声で言った。
彼の優しさに触れた兼続は涙を流す。
三成はそんな兼続の前に手を差し伸べた。
「ほら」
「……ありがとう、三成」
兼続は流れる涙を拭きもせず、目の前に差し出された手をしっかりと握った。
三成はもう一方の手で拾った兼続の剣を手渡す。
作品名:『テスト投稿』もしも~ 大坂夏の陣 作家名:川原悠貴