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戦争サンド、お持ち帰りで

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「で、何で毎日来るんですか」

醒めた目を隠すことすらしない。
カウンター越しに揺れる黒髪を僕はどうしようも無い思いで見つめた。
ご飯を食べさせ帰したはずの行き倒れは、またひょっこり現れるようになった。
そして何か食べさせないと出ていかない。
こんな時間にふらりと現れる彼は働いていないんだろうか。
それにしては上等な服を着てるし最初こそ行き倒れていたが、どうやらお金を持ってないわけではなさそうだ。
時折携帯で連絡をしているし、この間なんか流暢なロシア語を話していた。
美形な容姿によく回る口と独特な雰囲気。
頭のてっぺんから足のつま先まで胡散臭すぎる。

両親が市場から戻ってくるまでに何とかして彼を帰したい僕は、結局毎日料理を作るようになってしまった。
材料費は自分のおこづかいから捻出しているのだ。こう毎日だと結構な出費になる。
失敗だ。大失敗だ。
あの時仏心を出さずにいっそゴミ箱の中に放り込んでおけばよかった。
それとも静にいに、・・・・・・。
フライパンに油を敷く動きが止まる。

「だって俺、帝人くんの料理が好きなんだよねえ」
「・・・・・・へあっ?!」
「ハハ。へあ、だって」

沈んでいた意識に突然ビックリするような言葉が降ってきて声が引っ繰り返った。

「な、何言ってるんですか。僕、素人ですよ。手際だって悪いし・・・」
「手際なんて回数なんてこなせば誰でも上手くなるよ。
それより帝人くんの料理は素直で品が良くて愛情たっぷりな所。それが食べると料理からちゃんと伝わるんだよ。良いよねえ。
あと不思議な奥深さもあるね。底がどこにあるのか、俺にも分からないんだよ。君っていう人間の度量かなあ。
こんなに面白いとやみつきになるよねえ」
「そ、そうですか」

下を向いた顔が上げられない。
頬に熱が集まるのは熱されたフライパンのせいか。
慌てたせいで卵を1つ多く割ってしまった。・・・まあ、いいや。

「あ、卵焼き?それ1番好きなんだ」
「・・・ありがとうございます・・・」

蚊の鳴くような声で礼を言う。
褒められれば悪い気はしない。
僕だって作ったものを喜んでもらえれば嬉しいし、それが将来なりたい職の物なら尚更だ。
臨也さんは鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌さでこちらを見ていた。
確かに自分が食べ続けるのも限界があるし、味の指摘は凄く的確だ。
材料代しかかからない有り難い味見係だと思えばいい。
それとも野良猫を餌付けできたらこんな感じ、かなあ・・・・・・。
本人にはとても言えないことを思って、僕はくすぐったさに笑みを浮かべた。